深海の灰色狼。第二次世界大戦で大西洋において連合国側を戦慄させたドイツ海軍の潜水艦「Uボート」にまつわる物語をオムニバス連載で紹介する。
鹵獲隊を率いた英雄アルバート・ディヴィッド中尉。1945年9月17日に43歳の若さで早逝したが議会名誉勲章を追叙された。

U505の数奇な運命:「ハイヨー、シルヴァー!」

 1944年、アメリカ軍のダニエル・ギャラリー大佐は、ドイツ軍の潜水艦Uボートの鹵獲を試みる。ケープ・ヴェルデ諸島沖で捜索した際、とうとうチャタレインがUボートを発見。チャタレインの艦長ダドレー・ノックス少佐は、ギャラリーに報告すると対潜兵器ヘッジホッグを投射した。
 しかし、チャタレインのヘッジホッグは起爆しなかった。と、上空を旋回していた2機のワイルドキャットが1機ずつ、連続で特定の海面へと急降下して機銃掃射を実施し、パイロットが報告した。

「味方各艦へ。ただいま銃撃を加えた位置にUボート潜航中。攻撃されたし」
 そこでチャタレインは爆雷12発を連続投射しつつ、U505の頭上を通過した。U505の乗組員たちはすさまじい衝撃波の嵐に翻弄され、あこちに身体をぶつけて打撲傷や裂傷を負い、常備灯はすべて消え、非常灯の一部も割れた。

「後部魚雷発射管室、浸水!」
 報告と同時に乗組員たちが逃げ出してくる。潜舵と方向舵も損傷で動かなくなった。
「全タンク、ブロー! 浮上して総員退艦せよ。合わせて自沈の準備だ!」
 ランゲが大声で怒鳴る。
「Uボート、浮上中!」

 ワイルドキャットからの報告に、3隻の護衛駆逐艦が周囲に集まった。そして6月4日1121時、ついにU505は浮上した。敵は洋上で一戦試みるか、あるいは脱出か。予想が付かない状況下、同艦のセイルのハッチが開いて真っ先にランゲが飛び出した。それに向けて各護衛艦は機銃掃射を加え、彼は重傷を負って倒れた。後から出た乗組員が彼を海に放り込むと、以降、乗組員全員が次々海に飛び込んで行った。

「このUボートを鹵獲せよ!」
 ギャラリーの命令を受けたピルスベリー座乗の第4護衛駆逐艦戦隊司令フレデリック・ホール中佐は、Uボート鹵獲の準備を予め整えていた。アルバート・ディヴィッド中尉率いる鹵獲隊がピルスベリーのエンジン付きホエールボートでU505に移乗。ガダルカナルからこの様子を見ていたギャラリーは、音声通話でホールに激励を送った。
「ハイヨー、シルヴァー!行け、私のカウボーイたち」

 艦内に入った鹵獲隊は自爆装置が起動されていないので一安心し、自沈用キングストン弁を閉じて浸水を止めた。かくて1815年にアメリカ軍艦『ピーコック』がイギリス軍艦『ノーチラス』を鹵獲して以来、戦闘下におけるアメリカ海軍二度目の敵艦鹵獲劇の舞台となったのは、フランス領西アフリカ、ブランコ岬の沖合であった。

 U505の鹵獲で、きわめて貴重なエニグマ暗号関連情報がほぼ全て入手できた。だがこれをドイツ側に知られてしまうと暗号が変更になる。そこで同艦の鹵獲は超極秘事項とされ、秘匿のためラテン語で「ほかにない」という意味のネモの艦名が与えられた。

 かくして数奇な運命を辿ったU505は今日、シカゴ科学産業博物館に展示されており、その姿を誰でも見ることができる。