「女性と一度でいいから性行為をしてみたい」

 そんなYさんが40代の若さで亡くなった。死因は、脳卒中だった。脳卒中とYさんの障害との因果関係は分からないが、かねてからYさんは行動的に人生を謳歌している最中から、ずっと言っていたことがあるという。

 それは、「女性との性経験をしてみたい」ということだった。

 Yさんは、異性や恋愛に興味を持ち始める十代に頚髄損傷を受傷した為、女性との交際や性経験をしたことがなかった。

 障害の有無に関係なく、異性に興味を持ち、交際や性経験をしたいと思うことは、極めて当たり前のことだから、Yさんがそのような言葉を口にするのはいたって自然なことだ。

 Yさんはその行動力や明るい性格などから、男女ともに交友関係は広かったが、こと恋愛やその先の性関係のこととなると、躊躇してしまっていたという。

 障害を相手に受け入れてもらえるのか? 二次障害の排便や排尿障害などが、相手の前で失禁というかたちで起こってしまうのでは? 性行為の動きや、行為中に寝具と身体が摩擦などで擦り傷ができるのでは? 等々の心身的不安が拭えなかったからだ。

 Yさんは、友人のAさんに「女性と一度でいいから性行為をしてみたい」と話していた。Aさんとは自身のイラストの個展で知り合い気の許せる友人関係になっていた。Aさんが介護福祉士ということもあって、Yさんはあらゆる話題をAさんと安心して話すことができたそうだ。

 そんな会話をいつものようにしているある時、AさんはYさんから頼み事をされた。それは、Aさんに性行為の相手になってもらえないか?というものだった。恋愛感情はない。ただ、Aさんなら介護福祉士だし、気の許せる関係性だから安心、という理由だった。

 Aさんは友人であるYさんとの行為を受け入れることはできなかった。これも極めて当然のことだ。友人からいきなりそんな誘いを受けても、障害の有無は関係なく断るだろう。

 しかしYさんの性行為に対する切なる思いと事情を知っているAさんは、Yさんからの願いをあっさりと断ることはできず、受けるべきかと少し考えたという。

 考えた末に、Aさんはその頃好きな人が居たのと、やはり友人のYさんと性行為をすることには抵抗があった為、その申し出は断わった。

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