「国宝」という言葉が誕生して、ちょうど120年を迎えた2017年。京都国立博物館で開催中の「国宝展」が話題だ。京都は、国宝を多く所有する都道府県ナンバー2で、有形• 無形の文化遺産に溢れている。この町に暮らす三人が、「京都×国宝」をテーマに熱く語ります。 

「これは国宝です」と
作品に添えないフランス

京都国立博物館にて。写真左から、佐々木丞平氏、井上章一氏、神居文彰氏。

井上章一(以下、井上) イタリアやフランスにも国宝に似たものはあるんですか?

佐々木丞平(以下、佐々木) 日本では、これは国宝です、と作品名などに添えますが、例えばフランスではそういったことはない。でも、政府としてはリストを持っていて、日本でいう国宝級、重文級というのは把握しているようでした。

井上 いざというときに緊急避難できるようにですね?

佐々木 その通り。何を優先するかということですね。

井上 “国宝”はもちろんありがたいですが、できれば世界の宝とされる時代が来るといいなと思いますね。

 本阿弥光悦を調べているイタリア人がいれば、日本人は外国人が日本の文化に興味を持っていると驚き、そしてありがたがりますよね。しかし、ミケランジェロに興味を持っている日本人がいても、イタリア人はなんとも思わない。ミケランジェロが世界中から興味を持たれていることを当然と受け止める。

 私たちには、どこか鎖国的なところがある。それが国宝の在り方にも影を落としているのかもと思ってしまいます。

——京都の人は普段から国宝が身近で、特別興味を持たないと聞くこともありますが。

佐々木 国宝はいくらでもどこにでもあるからね、という京都の方はたしかに多いかもしれません。古いもの、由緒正しいものに囲まれた環境ですから。

井上 京博で、例えば東寺の特別展があれば、多くの人が訪れるでしょう。でも、それは国宝だからではなく、東寺だから。東京よりは、そういう傾向は強いでしょうね。

 人から聞いた話ですが、京博の展示で展示物を指しながら、「あれはあそこの家に以前は、あったやつだよね」と言う来館者もいたそうです。

神居文彰( 以下、神居) そういうこと、ありますね。祇園の屏風祭でも、一番良いものは出せないけれど、もっと良いものがあることはみんなわかっていて、うがった見方で文化財を見ている。

佐々木 江戸時代、特に18世紀には京都は一大観光地となり、全国から多くの人が集まりました。そのころの出版物に観光案内のようなものがあり、17日間の観光コースをつくってあったりするんです。行き先の中心は寺社で、このお寺にはこういう名宝があって、この日に虫干しされるから見られるということが細かく記録されている。

神居文彰(かみい・もんしょう) 平等院 住職/ 1962 年愛知県生まれ。 92 年平等院住職に就任。(独)国立文 化財機構運営委員、(公財)美術院監事、 (学)埼玉工業大学理事。文化審議会文 化財分科会企画調査委員。著作に、『平 等院物語』(四季社)『別冊太陽 平等院 王朝の美』(平凡社)など。

神居 「三十三箇所」など12世紀ごろからある巡礼は、祈りであると同時に、遊興の機会でもありました。ツアーの始まりですね。また平等院は、日本で最初に大蔵会を行ったといわれています。平等院の経蔵(宝蔵)は日本三経蔵の一つですが、経典を集めるだけでなく、例えば妖怪として征伐された酒呑童子の首なども納めていました。それらを年に一度公開したそうです。いわば博物館の始まりですね。

井上 藤原道長のころですか?

神居 その後の藤原頼通が1069年に始めたようです。

監修:京都国立博物館
〈『日本の宝』より構成〉