かつて、家制度のシンボルとして、社会の隅々にまで浸透していた家紋は、現代社会にあっても形を変えて暮らしの中で輝いている。日本人の心と伝統美の中に溶け込んださまざまな家紋の姿を探る。
監修・文/楠戸義昭
1940年、和歌山県生まれ。毎日新聞社編集委員を経て歴史作家に。著書に『あなたのルーツが分かる 日本人と家紋』『日本人の心がみえる家紋』『城と姫』『山本八重』など多数がある。
日本航空の「鶴丸」は現在5代目。:写真/起定伸行

 世界の空を飛ぶJAL(日本航空)の翼に鶴丸の赤いマークが光る。これは戦後間もなく、JALがフランスの有名デザイナーに社章を頼んだところ、「日本には家紋というすばらしいデザインがありますね」と言って、パラパラと紋帳をめくり、「素敵ではありませんか」と指差したのが鶴丸紋だった。
 鶴丸紋はJAS(日本エアシステム)との合併で一度消えた。その後、JALは企業破産のどん底を味わうが、見事に復活、そのシンボルとして2011年に再び翼に甦った。

 高級ブランドのルイ・ヴィトンを、なぜか日本人が好きなのは、その柄に何とない郷愁を感じるからといわれる。よくデザインを見ると、モノグラム・キャンパス柄が、家紋によく似ていて、菱紋、星紋、山形紋、黒餅紋などを連想させる。
 それもそのはずで、1896年に二代目のジョルジュ・ヴィトンが、模造品を防ぐために家紋をモチーフに制作されたといわれる。当時、パリやウィーンなどで開かれた万国博覧会に出品された日本の品々が、日本ブームを巻き起こし、浮世絵がモネ、マネ、ゴッホなどの画家に影響を与えたが、簡明でデフォルメされた家紋も欧州人の心を捕えた。ここにモノグラム・キャンパス柄が、ルイ・ヴィトンを象徴するデザインになったのだ。

ルイ・ヴィトンの名刺ケース。:写真/起定伸行

 家紋はサラリーマンのバッジにも息づく。三菱は社名も社章も、創業者・岩崎弥太郎の家紋・三階菱から生まれた。三菱の名は三階菱から階を抜いたもの。弥太郎が仕えた土佐藩山内家は三柏紋。これに合せて菱を配すると「人」という形になる。人の和が商売には大切として、「人」形のスリーダイヤ社章が誕生した。

三菱の社章。
住友の社章。

 やはり、財閥系の住友は発祥地が泉州堺であることから泉屋を号し、泉を井桁で表わした。一方の三井は、苗字から井桁の中に「三」の文字を入れて商標とした。だが家紋は同じ井桁だが、企業合併が続く中、誕生した三井住友銀行では、この井桁のロゴは使われていない。

『一個人 別冊 日本人の名字の大疑問』(2017年9月27日発売)より構成〉