僕をフッた彼女が好きだったあのエスニック、親父と食べたプレハブ小屋のあのラーメン…。「クックパッド芸人」藤井21が、これまでの苦く切ない思い出を振り返り、その思い出をスパイスに自慢の料理をふるう。思い出は愛しい。その思い出にまつわる愛しき料理。そう、タイトルの「めめし飯」とは「女々し飯」と思わせ、「愛々し飯」。見たらあなたもちょっと作ってみたくなるような。自分の思い出の引き出しも開けたくなるような。そんな料理の新提案。 

『たんぽぽ』に出てきたラーメン

 

 あの味を超えるラーメンにはもう出会えない。

 そんな大層なことを言ったところでそのラーメンは、やれ魚介と豚骨のダブルスープだとか、奇抜なトッピングが乗っていたりなんてことはない。 

 何の変哲もないただの醤油ラーメンだった。 

 でもきっとあの味を超えるラーメンには出会えない。そう思わせるラーメンだった。 

 あれはまだ僕が小学生の頃。 

 夜9時からのテレビのロードショーを見ていた。 

 その日放送していたのは伊丹十三監督の『たんぽぽ』だった。 

 半熟とろとろ卵の「たんぽぽオムライス」を世間に広めたこの映画は、宮本信子さん演じる未亡人のたんぽぽが、ひとりで切り盛りする寂れたラーメン屋をトラック運転手のゴロー(山崎努)やガン(渡辺謙)たちが店を立て直すストーリを中心にした、食のオムニバス映画。 

 この日僕はこの映画を初めて見ていた。 

 この映画が鮮明に記憶に残っている。 

 今でも結構細かい部分まで覚えていたりする。餅を詰まらせるおじいさん、ずるずる音を立てて食べるスパゲッティ、海女の女の子の牡蠣。そしてなによりその映画に出てくるラーメンがものすごく美味しそうだった。 

 チャーシューと小口のねぎ、メンマが乗った普通の醤油ラーメン。 

 当時我が家の不文律に夜9時過ぎたら寝なければいけないというものがあった。 

 しかしそもそも小学生にとって夜9時を超えて起きているのは物理的にしんどいのでそんなルールがなくても寝ていたのだが、その日は映画を見終えるまでしっかりと起きていた。 

 それくらいこの映画が面白かった。