日本全国に数多ある名字に高校生の時から興味を持ち、研究を始めた高信幸男さん。自身が全国を行脚し出会ってきた珍名とそれにまつわるエピソードを紹介する。

 秋の夜は、空も澄んで夜空を眺めるには絶好の季節である。今年の中秋(ちゅうしゅう)の名月は10月4日にあたる。中秋の名月といえば、何と言ってもお月見であり、日本各地で月見の宴が行われることと思う。

 名字の中にも、月見に関するものもあり、月見(つきみ)さんや、月(つき)・満月(まんげつ)・薄(すすき)・団子(だんご)さんがおられる。当然、それに伴う神酒(みき)さんもおられる。

 ところで、月見で一番大事なのが月(満月)である。せっかくの月見でも、月が見えなくては宴にもならない。満月の夜には、誰もがいち早く月を見たいと待っている。月は東の空から昇ってくるが、目の前に、山などの障害物があると、その障害物の上に来るまで待たなければならない。小高い丘なら我慢もできるが、3000m級の山がそびえていたら、とても月など見えない。つまり、関東平野のように平らな所なら月は良く見えるが、信州地方のように山に囲まれた地域では月が良く見えないのである。

 関東平野のほぼ真ん中に、「月見里」という名字の方がおられる。読み方は、「やまなし」と読ませる。つまり、「月の良く見える里には、山がない」ので、「月見里」で「やまなし」と読ませるそうである。「山梨(やまなし)」という名字からヒントを得て、トンチを利かせて考えた名字と思われる。いずれにしても、豊かな表現力の現れた名字である。ちなみに、静岡県にも「月見里」さんがおられるが、こちらは「つきみさと」と読む。

『一個人』2017年11月号より構成〉