「足の指」を折ったゼノンの最期 

 ゼノンは98歳まで生きたとも言われ、その間地道にずっと講義を続けていたそうだ。誠実な人柄で人徳があり、数多の市民を禁欲的な生き方の哲学へと導いたゼノンは、外国の出身であるにも関わらず、城壁の鍵を預けられたり、黄金の冠を授けられたり、銅像を建てたられたりするほど、アテネ市民から高い尊敬を集めていた。

 ゼノンの死も逸話となっている。ある朝、彼が出かけようとすると、躓いて転び、足の指を折ってしまった。ゼノンは死期が訪れたことを悟り、大地に伏したまま拳で地面を殴り続け「いま行くところだ、どうしてそう、わたしを呼び立てるのか」と言った後、自ら息を止めて死んだと言われている。
 真面目で大人しく恥ずかしがり屋なゼノンが、たまたま立ち寄った本屋の店先での出会いをきっかけとして、奇異な行いや言動を旨とするキュニコス派に弟子入りしたのは、不思議な運命の巡り合わせであった。だが、ゼノンの真面目さがあったからこそ、キュニコス派の哲学は体系的でより普遍的なストア派へと発展させられたのである。
 ストア派哲学は質実剛健を旨とするローマの知識人へ受け入れられ、セネカやマルクス・アウレリウスといった哲学者の思想へ継承されていく。奇抜で突拍子もない発想をするのも天才の一つの才能だが、真面目さを貫き継続するのもまた、一つの才能なのかもしれない。