去る2013年10月19日、下北沢の書店「B&B」にて、AV監督であり劇団「ブス会*」主宰のペヤンヌマキさんと、精神科医・香山リカ先生のお二人によるトークイベントが行われました。「生きづらい女の道をポジティブに乗り切る幸福論」イベント内容を、6回に渡ってダイジェストでお届けします。
 

第1回「風俗とは何たるものかを知りたくて」

 

イメージと違ってびっくり
 

 

香山 ペヤンヌさんは女性のAV監督ということで、世間一般の人が思うような「性に奔放」とかっていうイメージを私も持っていたんですが、『たたかえ!ブス魂』読んで、「えっ!そんな人だったんだ!」ってちょっとびっくりしたんですよ。よくそう言われませんか?

ペヤンヌ そうですね、「金髪にピアスの怖い人が来ると思ってた」とか言われて、「意外と普通ですね」とよく言われますね。

 

香山 この本には、ペヤンヌさんがどうしてAV業界に入ったかっていうお話も書いてあるんですが、それこそ女性でAV監督というと、H好きとかさ、撮られる側から撮る側になっちゃったなのかな、とか思うじゃない?

ペヤンヌ 確かに元AV女優の人が監督になるっていうのはよくありますよね。

香山 あとはピンク映画でも女性監督ってたまにいるけど、そういう人たちは、映画が好きだ!みたいなものすごい信念があって、自分のやりたいことができるのはピンク映画の世界だ、みたいな気合いの入った感じですよね。でもペヤンヌさんはそもそも、ものすごい映画好きとかではないし、H好きでもないんですよね。

ペヤンヌ はい、もともと普通の田舎で育ってわりと優等生みたいな感じだったんです。大学に受かって上京して、それまで彼氏が全くいなかったんですけど、大学デビューっていうんですかね、彼氏がやっとできて、幸せな日々を送っていたら、3年くらいたった時にセックスレスになって…。

 

彼氏の財布から出てきたものは…?


香山 ペヤンヌさんとしてはそれこそ将来結婚してもいいみたいな勢い?

ペヤンヌ そうですね、運命の人と出会ってしまったみたいな感じでした。もちろんその人としかセックスしたことなかったんですが、それがセックスレスになって、どうしようこれ私に魅力がないのかな?とかってすごい不安になってしまって。

もともと田舎にいた時も全然モテなかったので自信はなかったんですけど、彼氏ができたことによって女性としての自信がちょっとは持てたのに、そこでセックスレスになってしまってすごい落ち込んでたんです。

で、なんでだろうって思ってた時に、彼が「俺は女にあんまり興味ない」って言ってたので、わりと性欲が薄い人なんだと思いこんでたら、ある日財布を見たら、風俗のメンバーズカードを見つけて…。
 

 

香山 メンバーズカードっていうのがあるんですね。それって20個ハンコが集まったら1回サービスとか?

ペヤンヌ 何円引きとかそんなのがあって。ほんとに地獄に突き落とされたみたいな感じでした。

香山 何系の風俗だったんですか?

ペヤンヌ あとで調べたところによると、激安のピンサロだったんです。

香山 本番はなし?

ペヤンヌ はい。でもその時は風俗の種類とかも全く分からなくて。

香山 うぶな女だったんですね。ピンサロっていうのは分かったの?

ペヤンヌ いえ、そもそもピンサロっていう意味も分からなかったです。

香山 じゃあ風俗じゃなくて、美容室のメンバーズカードかなとかは思わなかったの?

 

ペヤンヌ いや…、風俗ということだけははっきり分かったんですよ(笑)。それで問い詰めたら、「バイトの人との付き合いで行ってプレイはしてないよ。話だけしたから」って言われて。ショックすぎた時っていい方向に信じたいじゃないですか。だから「あ、そうなんだ」と思ってそういう風に信じてしばらく過ごしたんですけど、また数か月後に、同じカードが…しかもハンコが増えてて(笑)。確実に通ってるな、みたいな。

なぜかその時に風俗嬢に恨みを持っちゃったんです。彼氏にムカつくというよりは、怒りの矛先がそんな風俗嬢がいるからいけないんだみたいになっちゃって。

香山 じゃあそこで風俗撲滅運動とか、普通そっち側に走りそうじゃない? 

ペヤンヌ …撲滅運動っていうのは思いつかなかったです(笑)。

 

風俗とは何たるものかを知りたくて


香山 そこからAV監督になるっていうのが不思議ですよね。

ペヤンヌ それが、タイミングがいろいろ重なったんですね。彼氏に「風俗なんてたいしたことないから」って言われたんですよ。「風俗行ったからって裏切ったっていうことにはならないから」って。

でも風俗はどういう場所かっていうのが分からない状態で言われても、反論ができないから、まずは知りたいって思っちゃったんですよね、風俗とは何たるかというものを。かといって私がお客さんとして風俗に行くわけにはいかないから、働くしかないって思っちゃって(笑)。でも、もともとコンプレックスが強いから、いきなり風俗嬢にはなれないんですよ、勇気がなくて。

それでその時にたまたまアダルトビデオのスタッフ募集というのを見つけたんですね。そういうエロの世界の仕事をすれば、男性の性欲とかを理解できるんじゃないかと考えて。

香山 頭で理解したいというタイプなんですね。

ペヤンヌ そうですね。知らない世界を知りたいみたいな欲がけっこう強くて。あと彼氏が自分の知らない世界を知ってるっていうのが嫌だったというのもあったと思うんですよね。

第2回「AV業界に入ってみたら」に続く

 

香山リカ
1960年札幌市生まれ。東京医科大学卒業、精神科医。立教大学現代心理学部教授。豊富な臨床体験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治、社会批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書には、『いまどきの常識』『「悩み」の正体』(以上岩波新書)『鬱の力』(共著)『しがみつかない生き方』(以上幻冬舎新書)、『くらべない幸せ』(大和書房)、『母親はなぜ生きづらいか』(講談社現代新書)、『しがみつかない死に方』(角川oneテーマ21新書)『ココロの美容液』(文藝春秋)『人生の法則』(ベスト新書)『「独裁」入門』(集英社新書)『気だてのいいひと」宣言!』『ほどほどの恋』『幸福の胸のウチ』(以上東京書籍)ほか多数ある。

 

ペヤンヌマキ
1976年生まれ。長崎県出身。AV監督/劇団「ブス会*」主宰。脚本・演出家。早稲田大学在学中、三浦大輔主宰の劇団「ポツドール」の旗揚げに参加。卒業後はAV制作会社に勤務した後、2004年に独立。フリーのAV監督として活動する傍ら、劇団「ポツドール」番外公演 ’女’シリーズ脚本・演出を担当。2010年、演劇ユニット「ブス会*」を立ち上げ、以降、全ての脚本・演出を担当。その他、NHK「祝女シーズン3」に脚本で参加するなど、幅広く活動している。著書に『たたかえ!ブス魂』(ベストセラーズ)。現在、週刊SPA!にてコラム「ぺヤンヌマキの悶々うぉっちんぐ」隔週連載中。「ブス会*」ホームページ:http://busukai.com