「異常分娩」だと産休が延びた

 母によると、次のような事情らしい。

 当時はまだ働きながら子育てする女性に厳しい時代で、出産休暇は「産前産後6週間」しか取れなかった。育児休暇もなく、仕事を続けたければ産後わずか1ヶ月ちょっとで職場復帰しないといけない。そのため妊娠や出産を機に、仕事を辞める女性が多かった。

 ただし、ちょっとした裏技もあった。産婦人科のお医者さんに「異常分娩」の診断書を書いてもらうと、産後の休暇が3週間くらい延びたのだという。

 正しさの固まりみたいな人から見れば、これは「アウト」なのだろう。医師と共謀して虚偽の診断書を作り、出産休暇を引き伸ばした罪にあたるのかも知れない。

 でも、まあ、もう時効と言っていいだろう。というより、産休がたったの産前産後6週間で、育児休暇もなかったほうがおかしいのであって、仮に本当の異常分娩でも産後2ヶ月程度で職場復帰しなければならなかったことになる。

 母と同じく学校の教師だった母の妹(ぼくのおばさん)にも聞いてみたところ「そうなのよ。私が子供産んだときはもう、その辺がうるさくなっててね、お医者さんに頼んでも診断書を書いてもらえなかった。それでその後、私たちが一生懸命、日教組に署名運動をしてね、やっと産後1年まで休暇が認められるようになったのよ。あの頃は仕事を続けたくても辞めなきゃならなかった女の人が、いっぱいいたんだから」

 そう教えてくれた。誰でも彼でも簡単に出産休暇を延ばせたわけではないらしい。

 それにしても、よくぞ母は教師の仕事を辞めなかったものだと、今になって感心する。

 うちは男兄弟が3人。一番上と一番下は6歳差だ。男の子を3人産んで、育児休暇のなかった時代に仕事を続けるのがどれだけ大変だったか。どれだけ仕事に対する強い意志がないとできないか。あらためて考えたことがなかった。

「赤ん坊の二郎くんをおぶって行って、学校の近くに預けてね。お昼休みになると連れてきてもらって、おっぱいを飲ませたりしてたんだよ」

 これは母の妹から聞いた話。母からは直接、その種の苦労話を聞いたことがない。こっちも照れくさくて聞けない。

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