去る2013年10月19日、下北沢の書店「B&B」にて、AV監督であり劇団「ブス会*」主宰のペヤンヌマキさんと、精神科医・香山リカ先生のお二人によるトークイベントが行われました。「生きづらい女の道をポジティブに乗り切る幸福論」イベント内容を、6回に渡ってダイジェストでお届けします。
 

「ペヤンヌマキ×香山リカ対談」第2回「AV業界に入ってみたら」

第1回「風俗とは何たるものかを知りたくて」はコチラ
 

 

親が隠し持っていたAVをこっそり…

香山 それまでAVは見たことあったんですか?

ペヤンヌ うちの親が隠し持ってた裏ビデオを中学校の時に見たぐらいですね。

香山 でもそれはそれでショックだったんじゃない?

ペヤンヌ 親は公務員なんですけど、むっつりスケベで、小さい頃からエロ本をよく隠してる家庭だなっていうのはあったんですよ。それの延長みたいな。

香山 お父さんを軽蔑したりとかはなかったですか?

ペヤンヌ ありましたけど、でもAVへの興味の方が強かったですね。こっそり親がいない時に見て、同じところまで巻き戻ししたりとか。そういうのを繰り返してました。

香山 じゃあ自分が入る業界は、昔見たAVを撮るって分かってたんだ?

ペヤンヌ それが、親が隠し持ってたのは洋ピンだったんですよ。だからちょっとまたそれとは別物かなっていうのはあったんですよね。でもそういうエロに対する抵抗は全然ありませんでした。 
 

エロを受け付けない人が無理やりAVを撮る会社?


香山 それで面接に行ったわけですね。志望動機とか聞かれたんですか?
 

 

ペヤンヌ はい、結構真面目な会社だったんですよ。平野勝之さんという、映画も撮っているAV監督の方がいた会社だったので、わりとドキュメンタリーが好きな人が来ていました。

香山 それは何年くらいのことでしたか?

ペヤンヌ 2000年くらいですかね。

香山 私ね、実はエロ本出身なんですよ。って言ったら変だけど、昔、「ヘブン」っていうエロ本と「ジャム」っていうエロ本があったんですよね。1980年くらいの話なんですけど、自動販売機でエロ本が売ってたんですよ。昼は見えなくて、夜になると透けて見えるっていう。そのエロ本は、表ではエログラビアがあるんですけど、読み物ページみたいな方は、割とカルチャー的な話とか、マンガなんかもあったんです。当時少年マンガでも少女マンガでもないような、岡崎京子さんとか、蛭子能収さんとか、ひさうちみちおさんとかがそういうエロ本で書いてたんですよ。

ペヤンヌ へぇ、豪華なエロ本ですね。

香山 今思えばね(笑)。今はそれこそ「SPA!」とか、サブカルチャ―誌とか発表媒体があるけれど、当時はそういうのなかったからエロ本に場所を借りてやってたのね。私もそういうところでもともと仕事をしていたから。

何を言いたかったかというと、映画をやりたい人が、直接映画会社に入るんじゃなくて、AV会社でドキュメンタリー的なAVを撮るとか、カルチャーっぽいことを編集したり書いたりしたい人がまずはエロ本の中で自由にやらせてもらうとかっていうのはそんなに不思議じゃなかったんです。

ペヤンヌ そうですね、会社にそういう人多かったですね。私が入った会社は、映画好きの青年ばっかりで、どっちかっているとエロは受け付けない人がなぜか無理やりAVを撮ったりとかして。「なんでAV撮ってんだろう、この人たちは」って思う感じの人もいましたね。

 

 


今までマイナスだと思っていたものが強みに変わった


香山 この本で面白かったのは、ペヤンヌさんは彼氏ができたことで一時自信がついて、でもその彼が風俗に行ってるってことで自信を失い、半ばやけっぱちもあってAVの世界に入ったら、逆にそこで今度また自信を取り戻していくっていうね。

ペヤンヌ そうなんです、それが自分の中で救われたというか。やっぱり風俗とかAVに出る女の人ってキレイですべての男性から欲情されて、自分とは全く違う存在だと思ってたのが、身近に接してみて、自分と同じようにコンプレックスを抱えて出ているって分かったりして自分のコンプレックスも解消されました。あと、男性の好みって割と幅広いなというのも分かって。

香山 本の中に、今までコンプレックスだと思っていたこと、押しがそんなに強くないとか、目立たないとかっていうのが、逆に女優さんをリラックスさせたりとかして、そういう意味ではむしろ取り柄なんだっていうふうに気づいたって書いてありましたね。今までマイナスだと思っていたものが、ここでは生かせる!みたいな。ま、ここだけ言うと、なんかすごいとってつけたような自己啓発本みたいだけど(笑)。

ペヤンヌ ほんと存在感がないっていうのがコンプレックスで、誰からも顔を覚えてもらえなかったり、前に会った人にも忘れられてたり、なんか暗いってよく言われてたんですよね…(笑)。それがAV業界では、押しが強くてはきはきした監督が多い中、逆に珍しがられたっていうのもあるし、威圧感を与えないというのは長所だったんだ、ということに気がつきましたね。

香山 くだらない質問だけど、親には言ったんですか?こういうところに就職しましたって。

ペヤンヌ その時は隠してました。

香山 ばれたんですか?

ペヤンヌ 演劇もやるようになってから、ネットとかに乗っちゃって、ばれちゃったんですよね。本名=ペヤング(※AV監督名はペヤングマキ)だっていうのが出ちゃって。それでAV監督をやっているっていうことが親に分かって、「何それは?変な監督じゃないやろね?」って言われて(笑)。変なのってどういうこと?って思ったけど、「お父さんが見てたような裏のやつじゃないよ」みたいな感じでぼやかしました(笑)。
 

 第3回「ブスノートと好みのタイプ」に続く 

 

香山リカ
1960年札幌市生まれ。東京医科大学卒業、精神科医。立教大学現代心理学部教授。豊富な臨床体験を生かし、現代人の心の問題のほか、政治、社会批評、サブカルチャー批評など幅広いジャンルで活躍する。著書には、『いまどきの常識』『「悩み」の正体』(以上岩波新書)『鬱の力』(共著)『しがみつかない生き方』(以上幻冬舎新書)、『くらべない幸せ』(大和書房)、『母親はなぜ生きづらいか』(講談社現代新書)、『しがみつかない死に方』(角川oneテーマ21新書)『ココロの美容液』(文藝春秋)『人生の法則』(ベスト新書)『「独裁」入門』(集英社新書)『気だてのいいひと」宣言!』『ほどほどの恋』『幸福の胸のウチ』(以上東京書籍)ほか多数ある。

 

ペヤンヌマキ
1976年生まれ。長崎県出身。AV監督/劇団「ブス会*」主宰。脚本・演出家。早稲田大学在学中、三浦大輔主宰の劇団「ポツドール」の旗揚げに参加。卒業後はAV制作会社に勤務した後、2004年に独立。フリーのAV監督として活動する傍ら、劇団「ポツドール」番外公演 ’女’シリーズ脚本・演出を担当。2010年、演劇ユニット「ブス会*」を立ち上げ、以降、全ての脚本・演出を担当。その他、NHK「祝女シーズン3」に脚本で参加するなど、幅広く活動している。著書に『たたかえ!ブス魂』(ベストセラーズ)。現在、週刊SPA!にてコラム「ぺヤンヌマキの悶々うぉっちんぐ」隔週連載中。「ブス会*」ホームページ:http://busukai.com