イラスト/フォトライブラリー
江戸の性事情』(ベスト新書)が好評を博す、永井義男氏による寄稿。

 品川のあたりに、母ひとり娘ひとりながら裕福に暮らしている家があった。
 近所の人が世話をして、娘は婿養子を迎えた。文化十三年(1816)七月のことである。

 一緒に生活を始めてから、女は昼間のあいだは亭主を大事にし、理想的な女房だった。ところが、夜になると寝間を別にして、けっして枕を共にしようとしない。
 四、五日たつと、さすがに男も腹を立て、女房に言った。
「夫婦になりながら、一緒に寝ないのは不審じゃ。このままでは、わしもこの家にはいられない」
 しかし、女はうつむいて黙ったままである。

 男が手を変え品を変えて問い詰めたところ、ようやく女が言った。
「あたしも、おまえさんと寝たい気持ちはあるのですが、おっ母さんがいるあいだは、それができない事情があるのです。思い切って言います。おっ母さんを殺してください」
「とんでもないことじゃ」
「ここまで打ち明けた以上、あたしは生きてはいられません。おっ母さんが死ぬか、あたしが死ぬか、どちらかです」
 女にせまられ、男はついに承知した。