アメリカの歴史学者エヴァンズ教授らが、日米開戦前からルーズヴェルト民主党政権下のホワイトハウスは事実上、ソ連の工作員・協力者たちによって「乗っ取られていた」と指摘しました。日本の終戦が遅れたのは、ルーズヴェルト大統領とトルーマン大統領の側近であったソ連の工作員・協力者たちによる妨害工作があったから。新刊『日本は誰と戦ったのか』を上梓した江崎道朗氏はこう続けます。

今なお続くインテリジェンスの戦い

東京裁判の法廷内 。偏狭な東京裁判史観の影響力は甚大であった

 誤解がないよう申し添えますが、私は「当時の日本政府の決断が正しかった」と主張したいわけではありません。「日本だけが悪かった」とする東京裁判史観に対して、「いや、日本は悪くなかった」と反発するだけでは不十分だと主張しているのです。

  国際政治というものは、多くの国々の意向、思惑によって決定していくものです。その決定に際して「外国の工作員たち」の秘密工作が大きな影響力を持つことを前提に国際政治、外交を見ていくべきだという至極当然のことを理解することが重要です。先の戦争に至る過程において「日本だけが悪かった」とする東京裁判史観は、その視野の狭さゆえに極めて問題があると主張しているのです。

  その視野の狭さは、わが国の歴史研究の構造的な課題でもあります。

  そこでこれまでの「偏狭な」東京裁判史観に対して長谷川教授は国際的な文脈と国内政治力学を踏まえた「インターナショナル・ヒストリー」を提唱しましたが、これだけでは不十分です。外国による「秘密工作」をも視野に入れた「インテリジェンス・ヒストリー(intelligence history)」も、これからの日本には必要なのです。

  残念ながら日本では、アカデミズムの世界において「コミンテルン」「工作員」「秘密工作」などを扱うことはタブー視されてきました。

 対照的に欧米諸国では、国際政治学、外交史の一分野として、このような秘密工作について論じる学問が「インテリジェンス・ヒストリー」として成立しているのです。

  こうした学問の存在を教えて下さった京都大学の中西輝政名誉教授によれば、1990年代以降、ヴェノナ文書などの機密文書が情報公開されたことを受けて欧米の主要大学で次々と情報史やインテリジェンス学の学部・学科あるいは専攻コースが設けられ、ソ連・コミンテルンの対外工作についての研究も本格的に進んでいます。この動きは英語圏にとどまらず、オランダ、スペイン、フランス、ドイツ、イタリアなどにも広がっています (中西輝政著『情報亡国の危機』東洋経済新報社、2010年)。

 そして、『スターリンの秘密工作員』を書いた二人こそ、この新しい学問の草分け的な存在なのです。

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