日本人の暮らしの智恵から生まれた季節指標、「雑節」。「彼岸」「節分」「土用」など、そもそもどのような由来だったのか?(雑誌『一個人』2018年1月号より)

日本列島独特の美しい季節の言い方

 農業を営む人々が、気候の異なる中国由来の暦では十分に季節の変化を掴めないと、独自に作った「雑節」。古くからの日本人の暮らしに溶け込み、年中行事や物忌みとも深く関わっている。
「物忌みとは、物事を慎むこと、縁起の悪いことをしないこと。例えば土用の日には、土いじりをしないというようなことです」と、國學院大學文学部教授の新谷尚紀さんは語る。

 もちろん「雑節」も旧暦に基づくので、立春は元旦と、その前日の節分は大晦日とほぼ同じ頃だった。だいたい立春と節分のほうが少し後だが、年によっては先に来ることもあったという。
「『古今和歌集』の最初の歌は、『年のうちに春は来にけりひととせを去年とや言わん今年とや言わん』。今は去年なの? 今年なの? と面白く詠んでいます」。

 台風が近づいたことを表す「二百十日」と「二百二十日」にも、新谷さんは注目する。
「今は、気象衛星ひまわりが台風の予測をしてくれますが、そんなものがない時代の人々は、体験的に分かっていたのでしょうね」。
 日本列島独特の季節の言い方でもある「雑節」。それぞれの言葉の美しい響きも、日本人の感性に合っていたのだろう。暮らしの中で、ぜひ気に留めてみたい。

2月3日頃[節分]
 ~四季の分かれ目~

 

 本来は年に4回あり、立春、立夏、立秋、立冬の前日を「節分」といい、それぞれの季節の終わりの日を差した。現在では、旧暦で1年の最初の日とされる立春の前日のみ。煎った大豆をまくことで、季節の変わり目にやってくるとされる鬼(邪気)を追い払う儀式を行う。「鬼は外」「福は内」と唱えながらまいた豆を年の数だけ食べる。

春分・秋分を挟んだ各7日間[彼岸]
 ~先祖供養の期間~
 春分の日と秋分の日を中日(ちゅうにち)とする前後3日間のこと。「彼岸」とは本来、あの世を差す仏教用語。最初の日を「彼岸の入り」、最後の日を「彼岸の明け」という。祖先を偲んで仏事を行う期間とされ、お墓や仏壇を洗い清め、先祖供養をするのが一般的。春分・秋分は、昼夜の長さが同じになる日で、「暑さ寒さも彼岸まで」などといわれる。

立春・立秋の前後[社日]
 ~豊穣祈願と収穫感謝の日~
 年に2回、春分と秋分に最も近い戊つちのえの日を差し、春を春しゅん社しゃ、秋を秋しゅう社しゃという。社とは土地の守り神のこと。春は里へ下りてくると考えられていたため、五穀の種を供えて豊作を祈願、秋は餠や収穫物を供え、天に帰る神にお礼する。

5月2日頃[八十八夜]
 ~一番茶のシーズン~
 立春から88日目。「八十八」という字が「米」になることから、かつては農事に関する祭りや祈祷なども盛んに行われた。漁業では魚の水揚げが多い日。茶摘みの最盛期でもある。

立春・立夏・立秋・立冬の前の18日間[土用]
 ~殺生を忌む期間~

 季節の変わり目である立春、立夏、立秋、立冬の直前18日間のこと。土をいじることは禁忌と伝えられ、農作業は休みとなった。それぞれの季節の勢いが最も盛んな時期とされる。

6月11日頃[入梅]
 ~梅雨入りシーズン~
 立春から127日目で、いわゆる梅雨入り。この頃、梅の実が熟すことに由来して、そう呼ばれる。実際の梅雨入りは、地域や気候によって異なる。陰暦では5月に当たるため、この時期の雨を「五月雨」という。

7月2日頃[半夏生]
 ~梅雨の終わりの頃~
 夏至から数えて11日目の7月2日頃を差す。農家では、半夏生までに田植えを終えないと、「半夏半作」といって収穫が減るといわれる。無事田植えを終えると、休養のためにさまざまな物忌みをする日でもある。

9月1日頃[二百十日]、9月11日頃[二百二十日]
 ~台風に注意!~
 立春から210日目と220日目で、台風の厄日。稲の開花時期であり、農家に注意を促した。「二百十日」「二百二十日」が近づくと、各地で豊作を祈願するための風祭りが行われる。

雑誌『一個人』2018年1月号より構成〉