大人になるということは、見られる、ということ。
つまり、見られる、ということに備える武器を、僕たちはこれからのステージで身につけていかなければならない。大人であることの証明、きっとそれを先人たちは「作法」と、名付けたのであろう。置かれた場所において、ふさわしい振る舞い、相応しい時計を身につけられる大人になりたい。
そんな男のための、大人の時計作法入門。
ベージュのスタンカラーコートを羽織ったまま、ブラウンのレザーショルダーを小脇に抱え、次の展示内容に想いを馳せる。そんな腕元から覗くのは、アートな空間に似つかわしい、格調高いアーティスティックな一本。

アートに触れる、ということ。

 例え都会のど真ん中にあろうとも、まるで異世界に迷い込んだかのような、不思議な時間が流れるアートギャラリー。たまの休日は忙しい日々を忘れて、静かな空間でアートに浸るのも悪くない。社会人になってからしばらく遠ざかっていたが、学生時代はアートに夢中だった。だから今日は久しぶりに、一日アートに浸ってみたい。そんな時、身に着ける物にも、やはりアート性を求めてしまう。気になるブランドは、やはりヨーロッパが多い。このユンハンスの1本も、ドイツ生まれのブランドだ。ダイヤルに描かれるのは、細身かつ小ぶりなインデックス。デイト表示も実にコンパクトだ。ケースもベゼルが極端に薄く、ラグの出っ張りも控え目。一概には言えないが、アーティスティックな印象を覚える時計は、シンプルなデザインが多い気がする。時刻を求めるだけではなく、ステイタスも気にしない、そして機能だって最低限で構わない。ただ身に着けて、眺めて満足できる。これも、時計の楽しみ方のひとつだ。

こちらもミニマルな表情を漂わせる、シンプルウォッチをチョイス。起毛感のある黒のニットセーターにネイビーのマフラーを巻き、寒い季節らしい温かみのある佇まいは、まるで時計の趣きと歩調を合わせるかのよう。

アートに触れるための、ミニマリズムという選択

昨今話題のミニマリズム。断捨離からの発展で、最低限の物しか持たないという生活スタイルを指すが、アーティスティックな時計も、それに近い感覚といえる。華美な装飾性を好まず、シンプルに徹する。そうしたデザインは、北欧ブランドに多く見ることができる。北欧とは、主にスカンジナビア半島辺りを示すもので、ノルウェーやスウェーデン、フィンランドやデンマークなどがそれに属している。1950〜1960年代頃から注目を集め、その無駄を省いたシンプルでモダンなデザインを採用した家具や生活雑貨は、いまや世界的人気を博している。その一方で、ドイツ発祥のバウハウス哲学に基づくデザインも、ある意味ミニマリズムと評することができる。これは機能主義、または合理主義とされるもので、機能に沿った必然的なデザインを差すもの。時を知ることに特化したデザインは、やはりミニマルなルックスに仕上がるのだ。
 これらは単にベーシックデザインとは一線を画す。削ぎ落としながらも、インデックスのサイズ感やレイアウトは緻密に計算され、決して素っ気ないわけではなく、バランスに優れたデザインに仕上げている。時には差し色を用いたりと、アクセントを効果的に活用する場合も。ともすればお堅いビジネスの場では遊び心と捉えられ、不相応と見なされる場合があるので注意を。一方で、カジュアルにおいては、ユニセックスで着けられるというメリットもある。