1930年代、新型の高速双発爆撃機を求めたイギリス空軍に対し、名門航空機メーカー・デハヴィランド社が提示した試案はなんと、「木製」の航空機だった――。驚異の木製万能機モスキートの活躍を描く連載、第4回。
仲間が次々に捕まり、窮地に立たされたフランス・レジスタンス。拷問による情報の漏洩を防ぎ、彼らの命を救うただ一つの手段として、イギリス空軍のモスキートによる救出作戦が立てられた――。
第140航空団司令パーシー“ピック”ピカード空軍大佐。ナヴィゲーターのジョン・ブロードリー大尉とともに「EGフレディーのF号機(「EG」は中隊識別符号、「F」は個機識別符号)」に搭乗して出撃し作戦を陣頭指揮した。

前代未聞の爆撃作戦「ジェリコー」

「味方まで吹っ飛ばしかねない爆撃とは! レジスタンスの諸君が勇敢なのはわかるが、これは勇敢を通り越して無茶だよ」
 フランス・レジスタンス首脳部の要請を受けたSOE(イギリス特殊作戦執行部)のF課長バックマスター大佐が言った。だがフランス亡命政府のレジスタンス支援局北部地区担当次長の中佐は、背に腹は代えられないレジスタンスの事情を説明した。

 こうしてこの作戦の実施が決まり、ヨシュアの軍勢がジェリコの街を守る城壁を多数の喇叭(ラッパ)の音で崩壊させたという旧約聖書の故事にちなんで「ジェリコー(Jericho)」作戦と命名された。爆撃目標はアミアン刑務所。今はドイツ軍が接収し、レジスタンス容疑者多数が収容されていた。同作戦は、超低空精密爆撃を得意とするモスキートにより同刑務所の外壁と建物の一部を崩し、捕まっているレジスタンス員たちを逃亡させようというものだ。
 イギリス空軍はこの作戦を、パーシー“ピック”ピカード空軍大佐率いる、モスキート装備の第140航空団に遂行させることにした。ちなみに彼は、大戦勃発直後に公開されたドキュメンタリー戦記映画『Target for Tonight』でウェリントンの「フレディーのF号機」の機長役を演じ、広く顔が売れていた。

 

 作戦実施が近づいたある日のこと。ブリーフィング・ルームに集められた第140航空団に所属する第21、第464(オーストラリア)、第478(ニュージーランド)、の3個中隊の隊員たちの眼前に置かれた台からカバーの布が取り払われた。現れたのはアミアン刑務所の精密模型だった。そして作戦内容が伝達されると、集まった全員が興奮と喜びで、声を上げたり鋭い口笛を吹いたりした。

 襲撃隊は、各々6機のモスキートFB Mk.Ⅵで編成された3個中隊計18機に、航空撮影班のモスキートB Mk.Ⅳ1機が随行するというものだった。使用する爆弾は、いずれも11秒の遅延信管を装着した500ポンドの中容量爆弾、汎用爆弾、半徹甲爆弾で、塀を破るには半徹甲爆弾、木造建物を粉砕するには中容量爆弾というように、狙う目標によって使い分けられた。爆弾の投下は、もちろん超低空で行われることになっていた。

 コイン・トスにより、第478中隊が第1波、第464中隊が第2波、第21中隊が第3波を務めることが決まった。ピカードは、ブリーフィングをこう言って締め括った。
「俺たちはこれから栄光と死が隣り合わせの晴舞台に立つ。だから最大限の努力をしなくちゃならん」
 彼自身、この言葉が自らの命運を暗示しているとは夢にも思わなかったことだろう。かくて時計の針は回り出した。