「踊り子の画家」ドガが、親友マネを怒らせ、引き裂かれた肖像画とは?若き日のピカソが、亡き親友との思い出の海を舞台に選んだ作品とは…有名画家の創作秘話や驚きの技法を楽しめる傑作を紹介する。今回取り上げるのは、ドガの『マネとマネ夫人像』(雑誌『一個人』2018年3月号より)。

ドガとマネ、似た者同士の複雑な友情

 絵具とイーゼルを戸外に持ち出し、うつろう光や大気をとらえたことで知られる「印象派」。その中でドガは、劇場や酒場といった屋内の人工的な光や、踊り子たちの複雑な体の動きに興味を示した。舞台上のバレリーナの姿を描いた傑作《エトワール》は、その最たる例である。しかし、画面向かって右側が断ち切られ、女性の顔が見えなくなってしまった《マネとマネ夫人像》は、そんな「踊り子の画家」の作品とは思えない、興味深いエピソードを持っている。

 本作はもともとドガがマネに贈った夫妻の肖像画であった。ところがマネは、描かれていた妻の顔が気に入らず、その部分を切り裂いてしまう。怒ったドガは絵を取り戻して修復を試みたものの、結局そのまま現在に至った。客観的には不完全な作品ということになるが、この切り取られた部分により、鑑賞者が夫婦の私生活を覗き見しているような、思いがけない効果を生んだ。
 ともに大ブルジョワの出身で年齢も近かったマネとドガ。ドガが後に印象派の画家として活躍するのも、マネの芸術論議に触発されたことがきっかけだった。本作はふたりの緊密で複雑な関係を物語る、絶好の作品といえるだろう。

夫婦のくつろぎの空間を覗き見しているかのような、偶然の構図(『マネとマネ夫人像』1868~1869年 北九州市立美術館蔵)

雑誌『一個人』2018年3月号より構成〉