■トラウマに打ち勝ちたい。のぞんだ渾身の演技

 幸いなのかどうか分かりませんが、家で取り立ての人を見たことはありません。
 ただ、単純に危害を加えられるんじゃないか、という恐怖があったことは克明に覚えています。
 それからもわたしが帰宅する時間を狙ったかのように取り立ての電話がかかってきました。

(どうか、どうか、家族に何もありませんように)

 電話のスピーカーで聞いてしまった闇金からの怒号は完全にトラウマになっていました。電話に出ることができません。

 そうこうしているうちに、留守番電話機能がオフになり、電話が鳴っていても誰からのものか分からなくなりました。ただ、電話が鳴っても誰も出ようとしない、そんな日々を送っていました。弟や妹たちは闇金からの電話を知らないそうです。怖すぎる体験を知らなくて良かった。

 それから14年後。女優になったわたしに巡ってきた闇金の役。この役をやることで、あのときのトラウマに打ち勝ちたい―。その思いで演じていました。

 それにしても、母の言う「この(貧乏な)経験はいつか自分のストーリーになる」というポジティブな発想は、本当に現実になったのでした。
(著書『Difficult?Yes. Impossible?...No. わたしの不幸がひとつ欠けたとして』より再構成)