昨年の暮れ、野村克也氏を突然の不幸が襲った。妻の沙知代さんが、突然死去したのだ。愛妻家として知られるノムさんが大切な人を失って痛感していることを、最新刊『野村の哲学ノート「なんとかなるわよ』で次のように吐露している。

■沙知代が逝ってしまったあの日のこと。

2005年撮影。写真:日刊現代/アフロ

 妻の沙知代が85歳で亡くなったのは、2017年12月8日のことだ。

 以前、本人に対して、半分冗談、半分本気で、

「俺より先に逝くなよ」

 と言ったことがあるのだが、本当に先に逝かれてしまった。

 その日の昼頃、自宅の寝室で起きると、隣のベッドでまだ横になっていた沙知代がこんなふうに話しかけてきた。

「左手を出して。手を握って」

 いつもは口にしない意外な言葉に笑いながら、私は手を握った。

 その後、ダイニングで昼食を摂ったとき、沙知代は食事に一口しか手をつけなかった。

 それから、私は隣の部屋でそれぞれテレビを観ていたのだが、突然お手伝いさんが、

「奥さんの様子がちょっとおかしいんです!」

 と言いながら、こちらの部屋に駆け込んできたのだ。

 沙知代はテーブルに突っ伏し、頭をつけたまま動かなかった。私が慌てて背中を叩き、

「おい、大丈夫か?」

 と声を掛けると、たったひと言、

「大丈夫よ」

 という返事があるだけだった。

 
次のページ 本当にいい奥さんだった。