いまも語り継がれる哲学者たちの言葉。自分たちには遠く及ぶことのない天才……そんなイメージがある。そんな「哲学者」はいかに生き、どのような日常を過ごしたのか? 
ピタゴラス。誰もがその名を知る「天才」、実はその存在すら定かでない――!?<前篇>

【連載「天才たちの変わった日常」

■カルト宗教団体の教祖だったピタゴラス

 ピタゴラスは「ピタゴラスの定理」を発見したとされる古代ギリシアの哲学者である。直角三角形の斜辺の長さの2乗は、他の二辺のそれぞれの2乗の長さの和と等しいというのが「ピタゴラスの定理」だ。

 

 何千年もの大昔に幾何学を研究していた人なのだから、さぞかし先進的で合理的思考をする人物……。そんな漠然としたイメージがあるかもしれない。だが、実際のピタゴラスはむしろ、非合理的な神秘主義者で「ピタゴラス教団」という秘密結社のようなカルト宗教教団の教祖を務めた宗教者だった。

 ピタゴラスという人物について、古代から様々な伝承が伝えられているが、それらの伝承の多くは、ピタゴラス本人の死後、教団の弟子たちが教祖を神格化するために作り上げたものだ。「ピタゴラスの定理」も、ピタゴラス本人が考え出したのではなく、「ピタゴラス派」の誰かが考え出したものではないかと言われている。教団の誰かが考え出したアイデアは全て「ピタゴラスの教え」とされ、教団全体で共有されていくことになったようだ。

 教団は徹底した秘密主義を貫き、教えが記された書物は門外不出とされた。そのせいもあってか、ピタゴラス本人、もしくは教団の書物は残されていない。それでも、何らかの書物が存在していたことは確かなようで、プラトンがシチリアへ旅行した際に大金を支払ってピタゴラス派の書物を入手したというエピソードが残されている。

 そもそも本当にピタゴラスなる人物が存在したのかさえ定かではないが、古来より伝わるピタゴラスについて書いていく。

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