日本初の飲める温泉

 群馬県には27市町村に454の温泉源泉があり、泉質は7種類と豊富な温泉を楽しめる。しかし、“飲める”となると話は別だ。飲んでもよいとされる「飲泉」は多くないのだとか。なかでも、伊香保温泉は“飲める温泉”と認定された国内第一号にあたる。

 明治初期、伊香保を訪れたドイツ人の医師エルヴィン・フォン・ベルツ博士が、温泉街の環境や衛生について調査したのがはじまり。日本で温泉は「入浴するもの」だが、ヨーロッパ諸国の温泉地は昔から「飲むもの」だ。医療と密接に結びついた療養地として利用され、飲泉の効果を早くから研究し、その効果を取り入れていたようだ。
 ベルツ博士は伊香保の泉質や効能を調べ、婦人科にかかわる病気や胃病などの効用が認められるとした。近郊の草津温泉は強い酸性湯のため飲泉は不可となっている。
 伊香保温泉の飲泉所は、伊香保神社から伊香保露天風呂に向かう途中にある。鉄分を多く含む泉質のため、その周辺は赤茶色に変色している。無臭無色だが、決してゴクゴクと飲める味ではない。例えて言うなら、“小学校の校庭の隅にある、ずっと使われていない水道水を飲んだ”ような 強烈な味だ。痛風、慢性アレルギー性疾患、肥満症などに効能があるといわれている。ちなみに、伊香保は温泉まんじゅうの発祥の地とされ、その温泉まんじゅうの色は、酸化して黄金色に輝く湯の色からきているそうだ。

 

 伊香保温泉はもうひとつ、全国に避雷針を普及させた地という歴史をもつ。群馬県の夏は雷がつきもので、毎日のように雷鳴が轟いていた。ある夏、伊香保にある御用邸の近くの宿に落雷があり、行啓の期間だけでも御用邸に避雷針を取り付けたいと希望が出たが、伊香保には通信施設がなく、渋川村(今の渋川市)まで馬を飛ばして内務省に電報を打ち、ようやく取り寄せて設置したのだという。当時、地方に避雷針があるのはとても珍しいこで、群馬県の避雷針第一号といわれている。このことがきっかけで、全国に避雷針が普及するようになったそうだ。
『万葉集』の歌の中にも現れる伊香保温泉には、知る人ぞ知る面白い歴史が詰まっている。