その昔、日本の成人男性の80%以上が喫煙している時代があった、大人になればお酒の味を覚える必要があった。現在では、喫煙率は28%まで落ち、若者のお酒離れが叫ばれている。特集「2040年のモノ」。未来、嗜好品はどうなっているのか。大人の嗜好品に詳しいライター納富廉邦氏は、むしろ嗜好品は今後重要性を増していくと語る。

■「スタイル」か「機能」か。これかの嗜好品は二極化する

 例えば若い人を見ていると、合理的という価値観や方向性は受け入れながら、一方で無駄を愉しむということができている。例えば、合理的で便利なサービスを活用して旅行計画を立てるのに、旅先では何もしないでゴロゴロしているとか、合理的なものと無駄なものをうまく使い分けているのです」「今、社会はますます合理的な方向に進んでいて、それはもちろん歓迎すべきことですが、生活する人間は合理性だけで割り切れるものではありません。便利で合理的な世界があるだけでは飽きがくる。だから嗜好品やエンタテイメントの世界は必要性が増すのではないでしょうか。

 また、NetflixやHuluなどをはじめとする映像配信技術の発達が、オールドファッションとみられていた嗜好品への興味を復活させるかもしれないと語る。

「嗜好品はスタイルでもあります。例えばタバコだって動作が大切です。昔は若い頃にスターがかっこ良くタバコを吸っている映画に憧れて、タバコを吸い始めた人が多い。もちろんおいしいから吸っているという面もあるのですが、どちらかというと吸っているという状況が好きなわけです。煙を多く出るようにプルームテックを改造してよりタバコらしくしている人もいるくらいですから。今のテレビに喫煙シーンは出てきませんが、配信サービスによって若い人たちも古い作品がどんどん観られるようになってきました。最新ドラマと同じ地平で過去の作品を観られるわけです。そこでタバコをかっこ良く吸ったり、渋いバーで一杯やったりしているシーンを観れば、意外と今の若者も憧れるかもしれません」

 とは言え、「タバコ、お酒、コーヒー」を代表とする嗜好品が現在の形態をそのまま取り続けるとは考えにくい。2040年の嗜好品を占う点でキーワードとなるのが「二極化」だ。嗜好品が「二極化」するとはどういうことなのだろうか。それは、スタイルや趣味として存在する本来の意味の嗜好品と、タバコにリラックス効果を求めたり、コーヒーを眠気覚ましとして飲んだりと「機能・効能」を求める嗜好品の二分化だ。

安価で度数の強い「ストロングゼロ」が人気だが…
(画像:フォトライブラリー)

「本来の意味の嗜好品はどんどん価格が高騰していきます。その代わり、品質はどんどんよくなりいいモノしか残らない。例えば、葉巻を高いコストを払ってシガーバーで愉しむように、旧来の紙巻きタバコはステータス化していく可能性があります。コーヒーも同じです。コーヒーだって今は安いですが、それはコーヒー農園の低賃金のおかげという側面があります。今後それができなくなってくるため、本当においしいコーヒーを作ろうとすれば単価を上げざるを得ない状況があります。一方、『機能・効能』面に焦点を当てると、リラックスしたいなら電子タバコでいいし、眠気覚ましならカフェインが入っていればいいわけです。タバコ・コーヒー的なものであればいい。今流行っている『ストロングゼロ』もただ酔うという機能だけのために飲まれている面があります。嗜好品の顔をした機能的なモノはそのぶん安く提供されます。ただしそのようなモノは、嗜好品文化とは別物と考えたほうがいいでしょうね」

 趣味嗜好を追い求めそのためには出費を厭わないマニアのための嗜好品と、効能や機能を重視する「嗜好品のような顔をした」モノ、未来は嗜好品にも明確なクラスができるのかもしれない。

プロフィール:納富廉邦
「おとなのOFF」「日経トレンディ」「グッとくる文房具」「GetNavi」「夕刊フジ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、使いこなし方の楽しみを伝える嗜好品ライター。
後編に続く。