特集「2040年のモノ」。2040年、テクノロジーの進化によって、嗜好品はどんな姿に形を変えていくのか。例えば、拡張現実などのデジタル技術は、余剰や無駄を愉しむ嗜好品に取って代わることができるのだろうか。〈前編『「ストロングゼロ」が心をつかむワケ。ただ酔いたい人が増えている!?』に続く後編〉

■嗜好品は最後の最後まで「アナログ」なものだ

「そもそも、嗜好品は五感に訴えるアナログなもの。実はデジタル化と相性が良くないのです。例えば、嗜好品の重要な要素である嗅覚。香料は物体なので、オンラインで送ることは無理。脳に直接働きかけることが可能になったとしても、それは記憶にある香りなので、順番が逆なのです。香りが記憶を喚起するものなので、その差を人間の脳はわかってしまうのです。嗜好品に関しては最後の最後までアナログであることがむしろ良さであると思います」

 アナログ的な側面を残した上で、技術の進化によって大きく姿を変えそうなのが電子タバコだ。

ここ数年で一気に市民権を得た「電子タバコ」。そのポテンシャルは計り知れない  (画像:クリエイティブコモンズ)

「電子タバコの付加機能として、口臭チェック機能、呼吸や脈拍のようなバイタルチェックは付くかもしれないですね。またコミュニケーションツールとしてのタバコの役割は残るかもしれません。昔の戦争映画ではタバコを半分にわけて、連帯感を感じるというシーンがよくありました。大抵は死亡フラグなのですが(笑)。例えば仲良くなったら、タバコの先をくっつければお互いのスマホに住所が送られるとか、タバコを吸っている人同士の連帯感がシミュレーションできるモノは登場するかもしれません。

 また電子タバコの味は切り替えられるようになるでしょうね。ソニーが発売している『アロマスティック』という、自分だけに香りを感じることができる小型なアロマ商品があるのですが、そんな存在になっていくと思います。パーソナルな空間におけるちょっとした気分転換を、他人に迷惑をかけずにやるものになっていく。だから煙のオンオフができるようになるかもしれません。要するにムードが欲しい時はオン、要らなければオフでというように」

 また、技術の進化によって、電子タバコには新たな嗜好品の形を作り出す可能性もある。

「デジタルが極端に進化した時代の娯楽って、臨場感を出すことが重要になるのです。その臨場感が何かと言えば想像力なんですね。だから記憶を喚起できる、想像力のフックとして使えるものが、嗜好品としてはどんどん発達するのではないでしょうか。

 例えばタバコは味と香りなので、コーヒーの代わりになるかもしれません。喫茶店の前でコーヒーの香りを嗅ぐと、意外と実際に飲んでいる気分になります。それはその香りが飲んでいる記憶を喚起しているからで、電子タバコがコーヒーの味と香りをしっかり出せれば、コーヒーを飲んだ気分になれるのです。その他にも、実家の香りを再現できれば、それを吸えば実家に帰ってきたように懐かしくなるなど、いろいろな喚起のシーンが考えられます。

 香りのプログラムはデジタルが得意とするところですし、そういう喚起剤として味と香りを提供する電子タバコは、新しい時代の嗜好品として可能性があるかもしれないですね。タバコということでイメージが悪ければ『アロマスティック』という形になるかもしれないですが、嗜好品の新たな未来の形を電子タバコは持っていると思います」

プロフィール:納富廉邦
「おとなのOFF」「日経トレンディ」「グッとくる文房具」「GetNavi」「夕刊フジ」などの雑誌をはじめ、書籍、ネットなど、さまざまな媒体で、文具などのグッズ選びや、使いこなし方の楽しみを伝える嗜好品ライター。