イメージを鋭く呼び起こす言葉で書かれた安部公房の小説は、死後25年経っても古びることはない。ブラックなユーモアがあふれ、深い思索の結実した安部公房ワールドは、混沌とした今こそ必読だ。

◆公房が求めたテーマは今なお新しい

 

 公房文学は、「前衛的」というイメージが先行して誤解されることも多かった。そこで、これから公房文学を読み解くためのキーワードを紹介する。

 1つ目は「逆進化の法則」だ。20世紀に入って弱肉強食の考え方が幅を利かせるようになったことに危機感を抱いた公房は、弱者が包摂される社会を念頭に「強肉弱食」の視点で作品を書いた。
 2つ目のキーワードは「閉鎖空間からの脱出」。逃げ場のない閉塞した社会でいかに希望を持つか、を公房は終生考え続けた。
 キーワードの3つ目は「全体が繋がった作品世界」だ。『箱男』の終わりに主人公の耳に聞こえて来る救急車のサイレンが、次作『密会』の冒頭の救急車のサイレンに繋がるなど、前の作品の結末を次の作品の冒頭に継承させて、作品同士を数珠繋ぎになっているのを見つけることができる。
 また涙、ガラス、水など透明なもので終わるなど、複数の作品で結末を共有していることもある。自分なりに公房ワールドの構造を見つけるのもおすすめだ。

 
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