満洲事変、シナ事変と中国大陸を巡って日米両国が対立し、ついに日米戦争に発展してしまった――。こういった歴史観には致命的な欠陥がある。日米開戦を引き金を引いたのはソ連だ。江崎 道朗氏が著書『日本は誰と戦ったのか』 の中で「雪」作戦指令の一部始終を記している。

■その指令は日本を挑発するきつい言葉と強い要求だった

ウィッテカー・チェンバース

 実は、ルーズヴェルト民主党政権が中国やソ連と通じているのではないかという疑惑は戦前からありました。

 一九三九年、ウィテカー・チェンバーズという『タイム』誌の記者が、ルーズヴェルト民主党政権内部にソ連の工作員が多数浸透していることを、当時の国務次官補でホワイトハウスの治安専門家であったアドルフ・バールに報告しています。 

 チェンバーズはソ連の軍情報部とアメリカ政府内の工作員グループとの連絡係を務めていましたが、独ソ不可侵条約やスターリンの大粛清【だいしゅくせい】に幻滅して党を離れたアメリカ共産党員でした。チェンバーズはバールに報告した内容を、その後FBI(連邦捜査局)にも伝えています。

The Venona seacrets(ヴェノナの秘密)

 一九三六年に、チェンバーズの工作員組織上の上司となったソ連軍情報部のボリス・ブコフは「特に重要な地下組織メンバーへのソ連の感謝」を示すために高価な贈り物をすることを決め、チェンバーズに命じて高額な東洋絨毯【じゅうたん】を四枚購入させました。ホワイトは、絨毯を贈られた四人のうちの一人です(『ヴェノナの秘密(The Venona Secrets)』p.31)。

 一九三八年から三年間、ホワイトらの地下組織は、ソ連軍情報部の指揮下にありませんでした。

 チェンバーズが一九三八年に共産党を離れたので、彼が接触していた地下組織をソ連軍情報部がそのまま使い続けることにはリスクがありましたし、また、ソ連本国ではスターリンによる粛清で指揮系統が混乱したこともあって、モスクワからホワイトらへの指令が途絶えていたのです。