満洲事変、シナ事変と中国大陸を巡って日米両国が対立し、ついに日米戦争に発展してしまった――。こういった歴史観には致命的な欠陥がある。日米開戦を引き金を引いたのはソ連だ。江崎 道朗氏は著書『日本は誰と戦ったのか』 の中で、ホワイトの覚書を引きながら、ソ連が日米両国の対立を煽ろうとする流れを明らかにする。

■アメリカの対日外交に対立を煽る強い意思が忍び込んでいた!

コーデル・ハル

『雪作戦(Operation Snow)』によると、ホワイトのメモはこのあと外交の重要さについて五頁にわたって冗長に述べ、次のように続きます。

 アメリカ政府と日本政府のそれぞれが提案すべき条文には便宜上番号を付け加えました。『ハル・ノートを書いた男』と内容が重複する部分は須藤眞志氏の翻訳を使っています。

 合衆国は不必要な流血と破壊を避けることを望むゆえに、日本経済を平和的かつ健全な水準に回復させるよう利益を与える意志があり、合衆国は中国が不幸にも一九三七年に中断された政治的経済的発展を進められるよう、独立を守り、平和を得ることを望んでおり、合衆国は合衆国と日本の間の永続的かつより友好的な関係には根本的な障害はないと信じており、また、平和を回復し、日本の産業と貿易を再建し、近隣諸国との間で日本の必要と近隣諸国の必要の双方に対して公正な基盤の上に友好的な関係を促進することを日本国民が歓迎するであろうと信じ、(同、p.43)

 ここでは日本に対して「言うことを聞けば利益を与えてやってもいい」ということと、中国の門戸開放・機会均等を実現したいということを言っています。

 続いて覚書は、アメリカ政府が日本政府に提案すべき条項として、以下のものを挙げています。

B.合衆国政府は以下を行うことを提案する。
一、太平洋からアメリカ海軍の大部分を撤収すること。
二、日本との間に二十年間の不可侵条約を締結すること。
三、満洲が大日本帝国の一部であると認識すること。
四、インドシナをイギリス、フランス、日本、アメリカの合同委員会が構成する政府のもとに置き、欧州での戦争が終わるまで、この四国が最恵国待遇を受けることとし、インドシナを人民の利益のために統治すること。
五、中国におけるすべての治外法権を放棄すること。イギリスが中国におけるすべての治外法権を放棄し、香港を中国に返還することの同意を取り付けること。
六、日本人のアメリカへの移民を禁止している一九一七年の移民法を廃止する法案を議会に示し、その法案制定を推進して、日本人および中国人を他の諸国民と同等の立場に置くものとする。
七、日本と貿易協定の折衝を行い、
(a)日本に最恵国待遇を与え、
(b)相互に満足のいく輸入上の譲歩を行う。これには二十年間生糸をフリー・リストの中に入れておく旨の合意を含む。
八、向こう三十年間にわたり年利二%にて三〇億ドルの借款【しゃっかん】
を行う。但し大統領許可なくしては年額二億ドルを越えないこととする。その半額は合衆国の製品購入に充て、残りはラテン・アメリカ諸国の商品・産物の購入に充てるものとする。
九、ドルと円の為替レートの安定のために、日米折半して五億ドルの安定化基金を創設すること。(同、pp.44-45)

「一、太平洋からアメリカ海軍の大部分を撤収すること。二、日本との間に二十年間の不可侵条約を締結すること。三、満洲が日本帝国の一部であると認識すること。」の三つは実に日本にとって魅力的な提案でした。

 特に満洲の帰属が日米両国政府の最大の懸案だったわけですから、満洲を日本の一部として認めるというのは、アメリカ政府の全面的な譲歩があるかのように見えます。しかし、これは後述するように、完全なペテンでした。

 
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