日本全国に数多ある名字に高校生の時から興味を持ち、研究を始めた高信幸男さん。自身が全国を行脚し出会ってきた珍名とそれにまつわるエピソードを紹介する。
 

 1月に沖縄県で咲き始めた桜も、4月には東北地方に達する。やがて、5月には北海道の根室まで達し、日本全国を駆け巡った桜前線も終わりを迎える。ところで、名字の中には桜の花の名字はもちろん、多くの花に関するものが多数ある。今回は、花に関する名字を紹介したい。

 今では、一年中様々な花を花屋や植物園等で見ることができる。しかし、名字としてある花は、日本に昔からあるもので、明治以降に外国から入ってきた花の名字は存在しない。名字として存在する花には、菊(きく)・蓮(はす)・桜(さくら)・梅(うめ)・桃(もも)・椿(つばき)・梔(くちなし)・薊(あざみ)・百合(ゆり)・撫子(なでしこ)・桔梗(ききょう)・菖蒲(あやめ・しょうぶ)・杜若(かきつばた)・牡丹(ぼたん)・朝顔(あ
さがお)・芭蕉(ばしょう)・芥子(けし)・躑躅(つつじ)・山吹(やまぶ
き)・馬酔木(あしび)等の名字がある。残念ながら、女郎花(おみなえし)や向日葵(ひまわり)等は存在しない。花に関係のある、花見(はなみ)・花咲(はなさき)・花摘(はなつみ)・花植(はなうえ)・花籠(はなかご)等の名字もある。当然、莟(つぼみ)という名字もある。
 花の名字の中で、朝顔さんや杜若さんは名字を付ける時にたまたま庭にその花が咲いていたから、躑躅さんはもともと小さい原っぱで小原を名乗ったが、春にその一帯に見事な躑躅が咲くことから躑躅に改名、桔梗さんは屋号の桔梗屋から、莟さんは、昔家が火事になり焼け残った梅の木で一時的に仮の母屋を建てたところ、梅の木から芽が出たので「つぼみ屋」と呼ばれ、明治時代に「莟」という名字にしたそうである。

雑誌『一個人』2018年5月号より構成〉