定年後の夫は、一時的に心が不安定になり、家族に八つ当たりするケースもある。そんな場合、家族はどう接したらいいのか。清水義範著『定年後に夫婦仲良く暮らすコツ』から著者の体験を紹介する。

■定年後、家族にあたるようになった父

 実は夫のほうも、仕事からリタイアした頃というのは精神がかなり不安定なのだ。

 定年が六十歳だとしても、少しは定年延長になるとか、関連会社で働けるというケースが多く、六十五歳くらいで本当のリタイアとなる人が多い。ちょうど年金が支給になる頃である。

 そこで、男の社会的立場は一変するのだ。

 働いてその稼ぎを得ている時、男はこうやって自分は家族を養っているのだ、と感じている。そう口に出して言う男も、言わない男もいるが、とにかく男は自分が一家を成り立たせていると感じ、そのことに誇りを得ているのだ。
 自分の価値が確かにそこにあると思えて、胸を張れるような気分になる。

 

 ところが、仕事をしなくなってみると、男は、急に自分に自信が持てなくなるのだ。家族を自分が養っているという根拠がなくなり、もう自分はこの家の主ではないのか、なんて気がする。周りにはそう見えるだろうな、と過剰に考えてしまうのだ。

 そんなわけで、仕事からリタイアした男はしばしば精神的におかしな具合になってしまうのである。定年ウツ、老人性ウツのような具合になることもある。その反対に、やたら怒りっぽくなり、大声で人に命令をするようになることもある。自分が一家の中心ではないかも、という不安は男をそこまで追いつめるのである。

 私の父が定年になった時にもそういうことがあった。私の父はもう二十年以上前に八十歳で亡くなっているのだが、その父が六十歳で仕事からリタイアした時に少しおかしくなった。

 それまでの父はまずまず知的な人で、人の話も紳士的にきき、穏やかな対応をする人だった。民主的な夫であり、父であったのだ。

 それが、仕事をやめて家にいるようになってから、やたらと大きな声を出して命令口調でしゃべるようになったのだ。「それはこうしろ」「それについてはほうっておけばいい」「そんなことは考えんでもいいんだ」などと、人の話を半分きいたくらいで怒ったように決めつけるようになった。主にそうやって叱られるように決めつけられていたのは母だったが、母にしてみれば、急におとうさんが別人のように怒りっぽくなった、ということだった。

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