「ピカソの絵の良さがわからない」「俺でも描けそうじゃない?」と、うそぶいていたリア充高校生が、絵を描く悦びに目覚めて美大受験を目指す!? 触りだけでもワクワクが止まらない『ブルーピリオド』が注目を集めている。現在2巻まで発売中の本作は、成績優秀で世渡り上手な高校2年生・矢口八虎が主人公。飲酒&喫煙上等、愛嬌があって人望も厚いが、何事にも本気になれない――そんな空虚さを抱えた高校生が目指すは、美術界の東大・東京藝術大学だ。読めば好きなものにのめりこんでいく熱さが伝染する本作。その著者、山口つばささんに話を聞いた。

 

ブルーピリオド(1) ©︎山口つばさ/講談社
ブルーピリオド

山口つばさ 著
講談社刊
既刊2巻

■あらすじ
成績優秀かつスクールカースト上位の充実した毎日を送りつつ、どこか空虚な焦燥感を感じて生きる高校生・矢口八虎(やぐち やとら)は、ある日、一枚の絵に心奪われる。その衝撃は八虎を駆り立て、美しくも厳しい美術の世界へ身を投じていく。美術のノウハウうんちく満載、美大を目指して青春を燃やすスポ根受験物語、八虎と仲間たちは「好きなこと」を支えに未来を目指す!(Amazon.co.jpより)

■掲載誌
 月刊アフタヌーン(2017年8月号〜連載中)
■公式ホームページ
http://afternoon.moae.jp/lineup/832
 

 

 

■ 美術から遠そうな人を主人公にしたかった。

――まずは美大受験×スポ根という設定がどうやって生まれたかをお伺いできますか。

山口 高校と大学が美術系だったこともあって、ずっと美術のマンガを描きたいとは思っていたんです。業界のこととか、お金のこととか、簡単なノウハウとか。ですけど、美術に明るい主人公より、なんにもできないところから読者と一緒に追っていく話にしたくて美大受験から始めた感じです。

――たしかに美術のことなんて何も知らない八虎ですが、それ以外のことは大抵出来てしまう器用さがありますよね。

山口 いかにも美術から遠そうな人を主人公にしたいというのがあって、見た目はヤンキーっぽく(笑)。あと、マンガや映画に出てくる美術が得意なキャラクターって、いわゆる天才肌というか急に目覚めるみたいなイメージがあるのですが、八虎は美術業界に対して斜に構えているイメージです。

――たしかに八虎は一度のきっかけでパッと絵に目覚めるわけではなく、オールした朝の渋谷を青いと感じ、先輩が描いた絵を見てハッとして……その後も感情や偶然が重なり合って心が動きだします。ちなみに、八虎が初めて心を動かした瞬間を朝の渋谷にしたのは?

写真を拡大 この日、感じた渋谷の朝の青さが八虎の進む道を変える!? ©山口つばさ/講談社

山口 松本大洋先生が『青い春』のあとがきで夜明け前の街の色は青いみたいなことをおっしゃっていて、めっちゃカッコいいなと思ってずっと印象に残っていたんです。(どれだけ情熱を燃やそうと 血潮を滾らせようと青春とはやはり青いのだと僕は思います。それはたぶん 夜明け前 街の姿がおぼろげにあらわれる時の青色なのだと思います/松本大洋『青い春』より)

――おぉ! そうだったんですね。八虎は初めて間近で油絵をみて、絵の中のモチーフの視線が動いたように感じます。ああいった表現はどこから生まれたんですか?

 

山口 モネの絵って、画集でみると「キレイだな」くらいの感じなんですけれど、実際にみると絵がちょっと揺らいで見えたり、VRみたいにその場に居るような臨場感があるんですよね。その経験をめっちゃ過剰に表現した感じです。

――そういえば、山口さんがお描きになる決めゴマも、iPhoneのLive Photosみたいにちょっとだけ動いているように感じることがあります。

山口 いやいやいや。もし、通常の描き方と違う点があるとすれば、普通のトーンは点々が均等ですが、私は一度墨でバッと塗った紙をスキャンしてトーンとして使っているんですね。マーブルっぽいというか、水彩っぽい感じになるんですが、もしかしたらそれかなあ。読者からの感想でも稀に色がついているように見えるとか、動いているように見えると言われることがあるんですけど、それは受け取り手の感受性の豊かさじゃないかなと思います。

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