うつ病とうつ状態は同じものではない。今、日本では実態を伴わない精神疾患の患者が増え続けている現状があり、そこには日本の医療制度にも一因がある。こう警鐘を鳴らすのは、「産業医」(※事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられる)として多くの企業でメンタルヘルスの面談を行う山田博規氏だ。山田氏が3月に刊行し話題を呼んでいる『あなたは“うつ”ではありません』から紹介する第5回。
【本書(編集部注:本記事)はうつ病を治すためのノウハウを紹介する類の本ではありません。むしろ現在うつ病の投薬治療を受けている方にとっては、受け入れがたい事実がたくさん書かれているかと思います。
 ですが、くれぐれも自己判断で現在処方されている薬の量を減らしたり、服用を止めたりしないよう、お願いします。
 抗うつ薬をはじめ、精神科で処方される薬は、一般的な薬と比べて体に強く作用するものが多いため、自己判断で減薬したり服用を止めたりすると、体調を悪化させるおそれがあります。
 安易な診断でうつ病にされている人が多くいるのは事実ですが、本当にうつ病で苦しんでいる人がいることもまた事実です。】

【うつ病の増加は日本の医療制度にも一因がある!?】

 統計データを見ると、日本のうつ病患者の数は、年々増加しています。

 

 厚生労働省が3年ごとに発表する患者調査によると、うつ病のほかに、躁うつ病、気分変調症などを含めた「気分障害」の患者数は、平成8年度(1996年度)から平成11年度(1999年度)の3年間にかけては8千人の微増ですが、次の平成14年度(2002年度)には一気に71万1千人にまで急増しています。

 そして、平成20年度(2008年度)には、とうとう100万人を突破。平成26年度(2014年度)には、調査開始以来最多の111万6千人となりました(平成23年度〈2011年度〉は、東日本大震災の影響により、宮城県の一部と福島県を除いた数値)。

 しかし、これらの数字を見る際に注意していただきたいのは、気分障害の患者数の増加が単純に病気としてのうつ病の増加を意味しているわけではないという点です。

 日本の社会保険医療では、保険診療の際、被保険者である患者が医療費の一部(原則1~3割)を窓口で支払い、医療機関が残り分を保険者(健康保険組合、国民健康保険組合など)に請求する仕組みになっています。

 その請求に際して、必要になるのが患者の傷病名です。

 つまり、日本の医療機関は、来院した患者に何かしらの診断名(「胃潰瘍【いかいよう】の疑い」などの疑い病名を含む)をつけなければ、お金(診療報酬)をもらえない仕組みになっているのです。

 もちろん、それは精神科でも同じです。

 そのため、気分の落ち込んだ患者が来れば、精神科医はDSMの診断基準項目を機械的に当てはめて、初診の段階でひとまず何らかの精神疾患名をつけることが多々あります。冗談のような話ですが「精神科を受診したから、精神疾患になった」というケースが意外なほど多いのです。

 しかし、そんな病院側の事情を世間一般の人はほとんど知りません。

 形だけでも医者から精神疾患の病名をつけられれば、自分は深刻な病気だと思い込んでしまうことでしょう。

 このように日本の医療制度上の問題からも、実体を伴わない精神疾患の患者が増え続けているという現状があるのです。

 
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