労働環境の改善等によって対処すべき問題を、労働者個人のメンタルの問題にすり替えた結果、メンタルヘルス対策を一生懸命頑張っている企業ほど、うつ病をはじめとする精神疾患の社員が多くなってしまっている。こう警鐘を鳴らすのは、「産業医」(※事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられる)として多くの企業でメンタルヘルスの面談を行う山田博規氏だ。山田氏が3月に刊行し話題を呼んでいる『あなたは“うつ”ではありません』から紹介する第7回。
【本書(編集部注:本記事)はうつ病を治すためのノウハウを紹介する類の本ではありません。むしろ現在うつ病の投薬治療を受けている方にとっては、受け入れがたい事実がたくさん書かれているかと思います。
 ですが、くれぐれも自己判断で現在処方されている薬の量を減らしたり、服用を止めたりしないよう、お願いします。
 抗うつ薬をはじめ、精神科で処方される薬は、一般的な薬と比べて体に強く作用するものが多いため、自己判断で減薬したり服用を止めたりすると、体調を悪化させるおそれがあります。
 安易な診断でうつ病にされている人が多くいるのは事実ですが、本当にうつ病で苦しんでいる人がいることもまた事実です。】

【メンタルヘルス対策に力を入れればメンタル休職が増える!?】

 

 このシリーズで紹介してきた事例で見た会社は、いずれもコンプライアンス(法令遵守)の意識が高く、従業員のメンタルヘルス対策にも力を入れています。

 しかし、皮肉なことに、メンタルヘルス対策を一生懸命頑張っている企業ほど、うつ病をはじめとする精神疾患の社員が多くなってしまうのです。

 このような皮肉な事態が生じているのも、DSMによって過剰に広げられた診断基準により、単なる一時的な気分の落ち込みまでうつ病等の精神疾患にされてしまうからです。

 すなわち、メンタルヘルス対策に力を入れている企業ほど、まるでベルトコンベアのように「気分の落ち込んだ社員がいる→産業医と面談させる→産業医から精神科の受診を勧められる→精神科でうつ病等の診断が下される→休職」というメンタル休職を量産する流れができあがっているのです。

 本来ならば産業医との面談の段階で精神科の受診にストップをかけられるケースもあるはずですが、なかなかそうはなりません。

 その社員に何かあれば責任問題にも発展しかねない上に、かつては私もそのひとりでしたが、大半の産業医は精神科の実情を知らないからです。

 ちなみに、一時期は30人ほどのメンタル休職者がいた会社ですが、私が産業医を務めるようになってからは、その数がどんどん減っていき、最終的にはひとケタになりました。

 これは別に自慢をしているわけではありません。

 と言うのも、私は誰かに自慢できるような特別なことをしたわけではないからです。

 また、当然ながら、彼らが精神科医に通うのを強制的に止めさせたわけではありません(そもそも、そのような行為は産業医に認められていません)。

 私がしたことと言えば、ただじっくり相手の話を聞いて、なぜ気分が落ち込んでいるのか、その理由に耳を傾けただけです。

 そして、たとえば職場の人間関係やオーバーワークに気分の落ち込みの原因があるとわかれば、それが改善されるよう彼らの上司や人事部に掛け合いました。

 ただそれだけのことで、従来ならメンタル休職一直線だった気分の落ち込みを解消できるケースが多いのです。

 反対に、それをしなければ、彼らはメンタル休職のベルトコンベアで運ばれ、最終的には精神科で無意味な投薬治療を受け続けることになります。

 精神科医の処方する薬を飲んだところで、職場の人間関係やオーバーワークの悩みが解消されるわけではありません。仮に薬が効いて多少気分が楽になったところで、問題の根本的な解決にはなりえません。この点を無視しているところが、今日の「メンタルヘルス対策」のおかしな部分だと言えます。

 
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