DSMに基づいて診断され、SSRIによって治療されるべきであるという欧米のうつ病観は、「うつは心の風邪」というキャッチフレーズとともに、日本に輸出されてきた。こう指摘するのは、「産業医」(※事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられる)として多くの企業でメンタルヘルスの面談を行う山田博規氏だ。山田氏が3月に刊行し話題を呼んでいる『あなたは“うつ”ではありません』から紹介する第10回。
【本書(編集部注:本記事)はうつ病を治すためのノウハウを紹介する類の本ではありません。むしろ現在うつ病の投薬治療を受けている方にとっては、受け入れがたい事実がたくさん書かれているかと思います。
 ですが、くれぐれも自己判断で現在処方されている薬の量を減らしたり、服用を止めたりしないよう、お願いします。
 抗うつ薬をはじめ、精神科で処方される薬は、一般的な薬と比べて体に強く作用するものが多いため、自己判断で減薬したり服用を止めたりすると、体調を悪化させるおそれがあります。
 安易な診断でうつ病にされている人が多くいるのは事実ですが、本当にうつ病で苦しんでいる人がいることもまた事実です。】

【海外の大手製薬会社が日本にうつ病を「輸出」した!?】

 

 今日でも言えることですが、たとえ激しく気分が落ち込んでいても、この内因性うつ病に該当する人は、実はそれほど多くはありません。SSRI販売以前の日本でうつ病が世間一般にあまり知られていない珍しい病気だったのもそのためです。

 うつ病患者の絶対数が少なければ、当然SSRIが処方される機会も少なくなります。それはつまり、製薬会社がSSRIの販売で得られる利益も少なくなるということです。

 そこで、GSK社をはじめとする製薬会社は、日本人の「隠れうつ病患者」を掘り起こすべく、SSRIの日本での販売に合わせて、大々的なうつ病啓発のキャンペーンを実施しました。

 日本ではまず1999年に国内初承認のSSRIであるデプロメール(一般名フルボキサミン)が販売され、続く2000年にパキシル(GSK社の開発したSSRIで一般名パロキセチン)が販売されました。
その際に使われたのが「うつは心の風邪」という有名なキャッチフレーズです。

 意図するところは、うつ病は特殊な人だけがなる珍しい病気ではなく、風邪のように誰でもなりうる一般的な病気であるという認識を世に広め、日本人の精神疾患に対する偏見やタブー視をなくし、精神科に通うことの敷居を下げることにありました。

 それと同時に「あなたを今苦しめている気分の落ち込みは、精神科に行けば風邪のように薬で治せるかもしれない」というメッセージも暗に伝えています。

 さらに言うなら、うつ病を風邪にたとえることで、うつ病の薬(SSRI)が風邪薬のように安心で安全なものだという印象を与える意図もあったのでしょう。