また、GSK社は、この「うつは心の風邪」キャンペーンの一環として、同社が出資したテレビCMでこんなメッセージを世間に訴えかけました。

「いつからですか? いつから我慢してるんですか?」
「『うつ』は1ヶ月、つらかったらお医者さんへ」
「それ以上我慢しないでください」

 ここで強調されているのは、気分の落ち込みの「つらさ」と「1ヶ月」という期間だけであり、気分の落ち込みの「理由」については、触れられていません。

 しかし、うつ病のイメージをシンプルかつ曖昧に伝えた効果は絶大で、このCMによって「どんな理由であれ1ヶ月以上つらい気分の落ち込みが続けばうつ病の可能性がある」という「うつ病観」が日本に定着していきました。
それはまさしく今日の日本のうつ病観、すなわちDSMの診断基準によって拡大されたうつ病の概念です。

 こうしてGSK社が仕掛けた「うつは心の風邪」キャンペーンをきっかけに、うつ病は、珍しい病気から一転して風邪のように一般的な病気だと世間に認識されるようになり、それまで本人も周囲も無自覚だった「隠れうつ病患者」がうつ病予備群として巷に溢れるようになりました。

 言うなれば、自社の薬を売りたい製薬会社のマーケティング戦略によって、欧米のうつ病観(うつ病はDSMに基づいて診断され、SSRIによって治療されるべきである)が、SSRIとともに日本に「輸出」されたのです。

(取り上げる事例は、個人を特定されないよう、実際の話を一部変更しています。もちろん、話を大げさにするなどの脚色は一切していません。また、事例に登場する人名はすべて仮名です。本記事は「あなたは“うつ”ではありません」を再構成しています)。

<次回は 新薬の登場でうつ病患者が急増した について紹介します>