日本の精神科医の大半は、DSMのことをアンケート調査のような曖昧なものであり、精神疾患を鑑別できるわけがないと思っていました。こう指摘するのは、「産業医」(※事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられる)として多くの企業でメンタルヘルスの面談を行う山田博規氏だ。山田氏が3月に刊行し話題を呼んでいる『あなたは“うつ”ではありません』から紹介する第11回。
【本書(編集部注:本記事)はうつ病を治すためのノウハウを紹介する類の本ではありません。むしろ現在うつ病の投薬治療を受けている方にとっては、受け入れがたい事実がたくさん書かれているかと思います。
 ですが、くれぐれも自己判断で現在処方されている薬の量を減らしたり、服用を止めたりしないよう、お願いします。
 抗うつ薬をはじめ、精神科で処方される薬は、一般的な薬と比べて体に強く作用するものが多いため、自己判断で減薬したり服用を止めたりすると、体調を悪化させるおそれがあります。
 安易な診断でうつ病にされている人が多くいるのは事実ですが、本当にうつ病で苦しんでいる人がいることもまた事実です。】

【当初は日本の精神科医に認められていなかったDSM】

 

 SSRIを処方する立場となった日本の精神科医も、うつ病の概念の変化を受け入れました。

 今でもそうかもしれませんが、当時から日本の精神医療は何かにつけて欧米、とくにアメリカの「先進的な精神医療」と比較されることが多く、阪神・淡路大震災後に高まりを見せていた「アメリカのように日常レベルでのメンタルケアにもしっかりと取り組むべきだ」という世論に、大半の精神科医がとまどっていました。それまで精神科を敬遠してきた世間が一変して「私達の抱えている不安をどうにかしてほしい」と訴えるようになったわけですから、とまどうのも当然です。

 そもそも当時の日本の精神科医が主に治療していたのは、内因性うつ病のほか、統合失調症や躁うつ病などのいわゆる「重篤な精神疾患の患者」であり、家庭や職場等の悩みを理由とする気分の落ち込みを病気だとは見なしていませんでした。
言ってしまえば、当時の日本の精神医学界は、アメリカ的な精神医療を求める世間の期待に応えられるだけの手段もノウハウも持ち合せていない状況だったのです。

 SSRIは、そんな「世界から遅れた」日本の精神医学界に製薬会社が救いの手を差し伸べる形で日本に入ってきました。「気分の落ち込みを訴える患者が来れば、とりあえずこの薬を処方しておけば大丈夫。欧米ではそれが一般的です」とでも言わんばかりに。
また、それに伴って、アメリカ的な精神医療を実現する上で欠かせない診断のノウハウが日本の精神科医学界で市民権を得ることになりました。
そう、DSMです。