前回の『個性を伸ばす教育からは個性は生まれない』という話は、今の学生さんや社会人になって間もない人たちにも役立つのではないでしょうか。自分の個性を認めてもらうよりも、まずは基本に忠実な行動と思考で、周囲の人たちと信頼関係を築くことが大切なんですね。さて、今回はそんな話と関連して。談慶さんが落語の世界に飛び込んでから周りから言われ、感じ、考えた『3年間のサラリーマン時代と比べると…』というお話です。では、読んでみてください。


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■なぜ会社をやめてまで入門したか

 入門した頃から現在に至るまで、耳にタコができるくらい聞かされまくってきたのが、「どうしてあんなにいい会社をやめてまで入門したのですか」という問いかけです。

 この質問を発する心の裏側には、「サラリーマンのほうが断然楽なのに、なんであんなに厳しい師匠のもとへ行ったのですか」、あるいは「大企業の安定した地位を投げ捨てたマイナスの大きさにあなたは気づいていないのですか」という気持ちが、根本にある場合がほとんどです。

 まあ、質問というより、楽な道よりつらい道を選んでしまったこちらの感性のなさに対する「詰問」ですな。

「落語家とサラリーマン」、この二律背反のような一八〇度違う生き様。比較のしようがないのですが、はたしてサラリーマンが楽で、落語家のほうがつらいと言えるのでしょうか。

 これに対する答えは、落語家を長年続けるようになって変わってきました。というより、落語家をずっと続けていると、サラリーマンと落語家は決して二律背反した生き方ではないという思いが、日増しに強まってくるのです。

 前座の当初の頃は、徒弟制度からくる戸惑いゆえに「サラリーマンのほうが楽だ」との考えに傾いていました。そりゃそうです。

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