今日のうつ病の大半は「本当のうつ病」(内因性うつ病)ではなく、製薬会社のマーケティング戦略の影響でうつ病だと認識されるようになった「人生の悩みによる落ち込み」です。こう指摘するのは、「産業医」(※事業場において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師。労働安全衛生法により、一定の規模の事業場には産業医の選任が義務付けられる)として多くの企業でメンタルヘルスの面談を行う山田博規氏。
山田氏が3月に刊行し話題を呼んでいる『あなたは“うつ”ではありません』から紹介する第14回。
【本書(編集部注:本記事)はうつ病を治すためのノウハウを紹介する類の本ではありません。むしろ現在うつ病の投薬治療を受けている方にとっては、受け入れがたい事実がたくさん書かれているかと思います。
 ですが、くれぐれも自己判断で現在処方されている薬の量を減らしたり、服用を止めたりしないよう、お願いします。
 抗うつ薬をはじめ、精神科で処方される薬は、一般的な薬と比べて体に強く作用するものが多いため、自己判断で減薬したり服用を止めたりすると、体調を悪化させるおそれがあります。
 安易な診断でうつ病にされている人が多くいるのは事実ですが、本当にうつ病で苦しんでいる人がいることもまた事実です。】

【うつ病は「いいかげんな病気」】

 

 これまで述べてきた通り、GSK社をはじめとする海外の製薬会社が日本にSSRIを売り込んだ結果、日本のうつ病患者が急増したのはまぎれもない事実です。

 しかし、別にそれは「陰謀」や「悪意」によるものではなく、むしろ「善意」に基づく利益追求だったという解釈が実態に近いと思われます。

 毎年多数の自殺者が出ているのは、日本人がうつ病という病気をよく知らず、メンタルケアの面でも欧米に遅れているからだ。ならば、うつ病の啓発活動をしっかり行えば、自分が病気であることを自覚し、我が社のSSRIで救われる人もたくさんいるはず。我々は薬の販売を通じて日本人のメンタルヘルス向上に貢献しようとしているのだ――もちろん多少は割り引いてとらえる必要があるかもしれませんが、海外の製薬会社の人々が当時そのような使命感に燃えてSSRIを日本に売り込もうとしていたという話も聞いたことがあります。
 それほどまでに彼らは自社のSSRIの効果に自信をもっていたのです。

 アメリカが民主主義を絶対的な正義と信じて、他の国にもそれを押し付けようとする心理と構造的には同じものだと言えます。

 一方、当時の日本の精神科医がSSRIの導入やDSMの採用に前向きだったのも、メンタルヘルスの充実を求める社会的な要請に応えたいという「善意」が根底にあったからでした。

 彼らもまた「うつ病の診断基準を広げて患者を増やし、ひと儲けしてやろう」などと考えていたわけではありません。

 あくまでベースにあるのは「気分が落ち込んでいる患者さんを何とかしてあげたい」という「善意」です。

 ただ「いいかげんな仮説」に基づいて診療を行なっているため、いくら善意や熱意があろうとも、結果として「いいかげんな専門家」になってしまっているのです。

 
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