10時50分、汽笛一声。列車はゆっくりとホームを離れた。実にスムーズな出発である。かつては、ガタゴト動き出し、機関車に引っ張られている小刻みな振動が体に伝わってきたものだ。最近でも、東武鉄道のSL「大樹」では、往年の汽車らしさを体感した。けれども、今回の「SLやまぐち号」では、それは感じなかった。あまりにもスムーズで、快適ではあるものの電車に乗っているのではと錯覚したほどだ。しかし、懐かしい「ハイケンスのセレナーデ」のメロディーが流れると、やはり乗っているのは客車であると納得した。

 SLやまぐち号は、まずは山口市内の市街地を走る。ところどころ、空き地や草の生い茂った場所はあるものの、総じて賑やかなところだ。汽笛を耳にして家から飛び出して来たのか、子連れや地元の人が線路際で手を振ってくれる。こちらからも振り返す。SL列車をはじめとするイベント列車ならではの、ほのぼのとした交流だ。
 15分程で最初の停車駅湯田温泉駅に到着。温泉地で過した観光客が何人も乗ってきた。

 空席はほぼ埋まり、満席となって列車は発車する。
続いて県庁所在地の山口駅に停車。いよいよ本格的な走りとなる。宮野駅を通過すると、家並は途切れ、緑豊かな丘陵地帯へと車窓が変化する。撮り鉄の姿も増えてきた。険しい山の中へ差し掛かり、周囲に何もなさそうな仁保駅で7分停車。この先の峠越えに備えて機関車内では準備に余念がない。乗客はホームに降りて、記念写真を撮ったり、機関車の写真を撮ったりと大忙しだ。

 発車時刻になったので車内へ戻る。仁保駅を出ると山越えのため長い田代トンネルを通る。車窓を眺めることはできないと思っていたら、女性アテンダントさんがやってきてくじ引き大会となる。当選者は、3号車にある運転シミュレータや投炭ゲームが利用できるとのことだったが、あえなく落選してしまった。近くに座っていた家族連れが当選し、嬉しそうに3号車へ移動して行った。

3号車のフリースペース
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