作家・井上ひさし氏と評論家・西舘好子さんの娘である井上麻矢さんが結婚・離婚・再婚を経験した母にいま想うこと。ふたりの共著『女にとって夫とはなんだろうか』から紹介する。

■悲しみを手放すこと

 悲しみを手放すこと......。

 それが歳を重ねる秘訣だと知ったのは両親のおかげかもしれない。 

 人生は幸せになることを求めることではなく、生きていることの連続の中で起こる小さな幸せを積みかさねていくこと。

 いつになったら楽になるのだろうかと問い続けて進むことがいつしか自分の力になっていることを誰しもが痛感する。私は何度か結婚をしたが、「二度と結婚したくない」と思ったことがない。本当に心から愛しいと思える人を見つけられることがすでにもう奇跡なのだからその気持ちの延長線に結婚もあり、離婚もあるのではないだろうか。もちろん失敗だなどと思ったこともない。別れた時は憎しみ合い、その気持ちが収まったわけではないが、与えられたことの方がはるかに多いことに気がつく。

 傷つきやすい少女時代に親の離婚を通して感じた孤独も娘としての不甲斐ない気持ちも、振り返ってみると妙に懐かしい。あの時必死に前に進めたことを今感謝している。

 私を産んでくれた両親、育ててくれた祖父母、何世代から続く私をこの世界に送り出してくださった宇宙の営みにも、奥底から湧き出てくる畏敬の心があり、支えてくれた友だちや人生の先輩たちにも導かれた。

 この先このままではだめだと思うこともあるだろうが、それでも人は一歩でも前に進む力を備えているはずだ。

 この数年、父と母がつくった劇団を通して、離れていく人、力を貸してくれる人、そしていつの間にか手のひらを返したように態度が変わった人を見て生きてきた。意外な人が手を貸してくれ、理解してほしい人に理解されずに大変な目にあった。それはいまだに続いている。

 時に心が折れそうになりながらもなんとか進んでいる。

 この複雑怪奇、魑魅魍魎とした仕事を一〇年は続けていくこと、誰に何を言われても淡々と続けていくことは父との約束である。一〇年先のことはいかにその一〇年を過ごすかによって答えが変わるはずである。今はその八年目……その答えはもうすぐ出るはずだろう。