統合失調症患者の大学生が幻聴や被害妄想により、復讐として近所の人を殺傷した「中野テレビ騒音殺人事件」(1987年)。事件の背景を、『殺人に至る「病」 精神科医の臨床報告』を上梓した精神科医の岩波明氏が解説する。

統合失調症という精神病が起こした事件

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--岩波明さんの著書、『殺人に至る「病」-精神科医の臨床報告-』(ベスト新書)を読み進めると、いよいよ重大犯罪を起こしたサイコパスの事例が登場します。「童話作家による宝石商殺人事件」(1987年)や「地下鉄サリン事件」(1995年)など6つの事例が分析されて、どれも衝撃的な内容です。なかでも、先生が一番印象に残る事件はどれでしょうか。

岩波 「中野テレビ騒音殺人事件」ですね。統合失調症により引き起こされた典型的な事件でしたから、精神科医として強い興味を持ちました。

(※「中野テレビ騒音殺人事件」とは…事件は1987年10月6日に東京都中野区の住宅街で起きた。22歳の大学生が下宿先の隣に住む大家の父娘を文化包丁で斬殺、続いて隣家にも押し入り母子3人を殺害した。犯行動機は「大家のテレビの音と隣の家の子どもの声がうるさい」というものであった。子どもを含む5人が殺害されたこの事件は、社会に大きな衝撃を与え、過密な現代社会が背景にあるといった論調も見られた。精神鑑定の結果、統合失調症と診断され、犯人は心神喪失状態にあり、責任能力が問われず不起訴となる。)

--犯人は松沢病院に措置入院となりますが、先生は担当医でもあったとか。

岩波 精神鑑定の結果は妥当なものであったと思います。被害妄想や幻聴、他者への攻撃性などが顕著で統合失調症として典型的な症状がありました。過密な現代社会が生んだ悲劇でもなんでもない、統合失調症という精神病が起こした事件といえます。

--犯人が精神鑑定において嘘をついて、精神病のふりをすることはありませんか。

岩波 詐病については、鑑定医であればそれは見抜くことはたいてい容易です。もとより鑑定期間は数か月に及ぶこともあり、その間ずっと病気のふりをするのは無理でしょう。この犯人の場合は、自分は正気だと思っていて、精神鑑定は裁判のために受けていると言っていました。彼の本音は、悪いのは自分を苦しめた相手であり、やられる前にやったのだという一点張り。病棟内の行動を見ても、彼が事件を深刻に受け止めてないことがうかがえました。幻聴と被害妄想により、入院患者と殴り合いなどのトラブルを起こすこともよくありました。

(取材・構成:宇野正樹)