掘り続けている人、柳美里 自選作品集第二巻
~家族との再演

『フルハウス』『家族シネマ』
『水辺のゆりかご』『家族の標本』
             収録


     柳美里 自選作品集第二巻
~家族との再演  <定価・3240円>

   

『すべては〈事実〉であり、
〈噓〉であるといえばひとは
胡散臭いと思うであろうか。
私は歴史であれ、政治であれ、
ひとの身の上話であっても、
それは事実であると同時に噓
だと思う、その自分の感覚を
信じている。芥川龍之介の有
名な小説「藪の中」に登場する
藪、カオスこそ私にとっての
〈真実〉である。
 ではいったいこれは何なのだ
ろう。あるひとは〈自伝〉
だといい、あるひとは〈小説〉
だといい、〈エッセイ〉だという
ひともいるかもしれない。
 ここに登場するひとたちは、実際に私の前に現れたひとびとだと断言する。懐かしく、哀しい思いを搔き立てるひとびとだ。彼らは存在したし、今でも存在している。私が浜辺で見た幻覚だったにしろ──、そう、この世はある種の幻覚なのだ。
 多くのひとが現れて、去る──、そんなことは私だけで
はなく誰もが経験する〈哀しみ〉だろう。残るのは思い出、
記憶にすぎない。そしてこの記憶こそが物語であり、物語
の〈変容〉の一切である。これは〈自伝〉でもなく〈小説〉
でもないとして、私はいおう。これは言葉の堆積である、
言葉の土砂であると──。
            『水辺のゆりかご』あとがきより

 

「書きつけた言葉の運動が、
その確かさ、狂気が孕む真顔が、
読者に息を飲ませる。」
             ──小山田浩子(作家)解説より