■プライバシーが守られなかった吉原の遊女

 しかし、吉原の外に出ることは許されていない。

 同じ空間のなかで、同じ人間関係のなかで自由時間を過ごさねばならなかった。

 図1は、昼見世が始まるまでの光景である。

写真を拡大 図1『北里花雪白無垢』(山東京山著、文政5年)国会図書館蔵

 一番左の女は鏡を見ながら、口紅をしているようだ。

 左から二番目の女は女髪結に髪を結ってもらいながら、手紙を読んでいる。女髪結は毎朝、妓楼にやってきた。

 三番目の女は腹ばいになって、本を読んでいるようだ。テレビもラジオもない時代だけに、読書が最大の娯楽だった。まわりに散乱しているのはカルタだろうか。

 一番右の女は三味線を爪弾いている。

 手前の女は、男に何やら託している。男はおそらく文使いであろう。遊女の手紙を客の男に届けた。

 女は数通の手紙を託すようだが、相手こそ違え、文面は同じであろう。こうした舞台裏を知らない男は、遊女から手紙をもらうと驚喜した。

 図2も自由時間の光景だが、夜見世が始まる前であろうか。雰囲気はけだるい。

 絵の左下に横たわっているのは、全盛の花魁浦里で、年齢は十九歳。客に酒を呑まされ、悪酔いしてしまった。

写真を拡大 図2『北里花雪白無垢』(山東京山著、文政5年)国会図書館蔵

 浦里を気遣い、遊女がこう声をかけている――

「浦里さん、起きて、この薬を飲みなんし」

 ともあれ、図1と図2を見ても、職住同一の妓楼の生活では、遊女にはまったくプライバシーがなかったことがわかろう。