東大卒で、学生時代は友人からも慕われていた豊田被告。地下鉄サリン事件でサリンを撒いた実行犯になってしまった彼だが、何が彼を変えたのか?精神科医岩波明が、オウム真理教による洗脳の正体を『殺人に至る「病」-精神科医の臨床報告-』(ベスト新書)で分析する。

■1日に3回の修行。睡眠時間はなし

 

 教団の施設に入所した豊田は、そこでまず極限修行と呼ばれる修行を2か月間行うが、これは8時間の修行サイクルを1日に3回繰り返す過酷なものであった。

 睡眠時間は確保されておらず、瞑想の時間に座ったまま眠るという、休息はほぼない状況で、食事はお供物と呼ばれるパンやヨーグルト状のものを不規則に1日1回とるのみであったという。教団側は睡眠時間を少なくすることや栄養状態を悪くすることによって、すでに教義にかなり傾倒している豊田の客観的な思考能力を、さらに低下させた。

 このような生活は、教団の施設という外部からの情報を遮断した環境で身体的に行動を制限するとともに、お布施により自分の財産を持たせないようにして経済的にも自由を制限している。これらの環境も豊田の視野を狭くし、客観的な判断ができなくなることを促した。

(中略)

「私は自分がしなければならないことに直接関係しないことについては、あまり関心がなく、自分がすることがないときは、横になって休んだり、眠ったりしていたのです」

 このように当時の精神状態は、自分自身に関連する狭い範囲のことにのみ意識が及んでおり、いわゆる計画の最初から参加し、自由意志で段取りを決めて実行するといった、通常の主体性は欠如していた。

 さらに犯行後の結果についても、「地下鉄にサリンを撒いてヒトを殺したが、殺した人はシヴァ大神にポワされたものだと考えなさいということと受け取り、そう考えることにしました」と松本智津夫の言葉でしか考えられない状況が続いていた。

『殺人に至る「病」-精神科医の臨床報告-』(ベスト新書)より構成>