松本清張賞と小学館文庫小説賞をダブル受賞して華々しくデビューした若手作家が『拝啓、本が売れません』という、とんでもないタイトルの本を刊行してはや数か月。版元の垣根を越えて、文藝春秋から一部先取り掲載させていただいた「風に恋う」も7月13日に刊行した。これは『拝啓、本が売れません』のその後の話である。著者の額賀さんと編集ワタナベは、本が売れない時代の新たな出版の形についてcakesやnoteを運営する株式会社ピースオブケイクの代表取締役CEOの加藤貞顕氏に話を聞いた。前編では「雑誌と本の再定義」という言葉が出てきた。〈中編〉

前編:本が売れない時代の届け方。ベストセラー編集者に聞く。

■本は将来「ファングッズ」になる

「額賀さんも自分のホームページを持っていて、Twitterもやっていますよね?」

「ずっとTwitterのみだったんですけど、つい最近ホームページも作りました。『拝啓~』の取材をする中でまずは自分の情報を溜める場所を作れと言われたので」

 ノートパソコンで私が作った「額賀澪 公式サイト」をチェックしながら、加藤さんは話を続ける。

「本が発売されたらTwitterで宣伝して、詳しい情報はホームページで確認してもらって、書店で買ってもらったりネット書店のリンクに飛んでもらう。そういう目的でこのサイトは作られていますよね?」

「そのつもりです」

 私が公式サイトを作ったのは、『拝啓~』の第4章で取材したWebコンサルタントの大廣さんのアドバイスがあったからだ。SNSでの情報発信も重要だけれど、時間と共に投稿が流れていってしまうSNS以外に、情報をしっかり溜めておけるホームページを持っておいた方がいい、と言われた。公式サイトを立ち上げて約半年、公式サイトへのアクセス数も順調に伸びている。

「額賀さんのサイトは綺麗に作ってあるしわかりやすいと思います。ただ、今から話す『雑誌と本の再定義』という視点から見ると、足りない部分も出てくるんです」

「というと?」

「ここには、《ビジネスのための仕組み》がないということです。SNSはもちろん、他のあらゆる場所から額賀さんのファンが集まって来る場所を作る、という意味では公式サイトは成功しているかもしれません。しかし、もう一歩先に進むとしたら、ここをコミュニティにして、ビジネスをして、さらにここから本を作ることをやってもいいのではないかと思うんです」

「売れる本を作る方法」を探し求める中で作った公式サイトだったが、まさかここで商売をしようとは、一度も考えたことがなかった。

「作家も出版社も、どうしても《本ありき》で物事を考えてしまいがちだと僕は思っています。本がすべてのスタートで、そこから電子書籍化したり、映像化といったメディアミックスを展開したり。すべての中心に本があるんです。でも、作家にしろ出版社にしろ、本当にやりたいのは、本を出すことなのだろうかと思うんです。本当にやりたいのは『想いを伝える』ということではないですか? 想いを伝えることを第一とするならば、本という形だけにこだわる必要はないのではないかと僕は考えました」

「それって、例えばcakesやnoteで小説の連載をして、そこから紙の本にしていく、ということですか?」

「そういう使い方もあります。でも、ネット上で完結できるなら、本にする必要すらないかもしれない。いまの時代に必要なのは、作家がネット上に本拠地をおいて、そこにファンとの接点を作って、直接ビジネスをすることじゃないでしょうか。読者がネットを見ている時間の総量を考えると、ネットに掲載されているものがコンテンツの大元で、本はその二次利用と考えるのは自然じゃないですか? 僕は、本は将来、クリエイターのファングッズのひとつになると思っています」

 作家さんとか出版社は、ファングッズって言葉に抵抗があるかもしれませんが。そう続けた加藤さんは、パソコンで私とワタナベ氏にいくつかの事例を見せてくれた。

 その中でも特に面白かったのは、2016年4月に単行本として発売された、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』(毎日新聞出版)だ。

 
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