松本清張賞と小学館文庫小説賞をダブル受賞して華々しくデビューした若手作家が『拝啓、本が売れません』という、とんでもないタイトルの本を刊行してはや数か月。版元の垣根を越えて、文藝春秋から一部先取り掲載させていただいた「風に恋う」も7月13日に刊行した。これは『拝啓、本が売れません』のその後の話である。著者の額賀さんと編集ワタナベは、本が売れない時代の新たな出版の形についてcakesやnoteを運営する株式会社ピースオブケイクの代表取締役CEOの加藤貞顕氏の見解を聞いた。〈後編〉

前編:本が売れない時代の届け方。ベストセラー編集者に聞く。
中編:なぜ全文掲載すると、本の売上が伸びるのか?

■CDの登場で、音楽はどう変わったか?

cakesでの取材にて。

「実は、noteで漫画のコンサルティングをやり始めたんですが、この反響が凄いんです。漫画家さん自身からの問い合わせが増えています。それも、これまでは新人のかたが多かったのですが、最近は中堅クラスの方も増えているんです」

 noteが「マンガ作品の売り上げを最大化するメディア活用」を目的としたコンサルティングを開始したのは、今年の4月。出版社や作家に向けて書籍の売り上げを最大化するためのnoteの利用法、発信法などを提供し、ウェブで読者へあまねく届けるためのサポートを行う、というものだ。

 作家が自分の作品の宣伝をするなんて……と懐疑的に思う人がいるのはもちろんわかる。読者にも、出版社の中にも、作家の中にもいる。でも、自分の本が売れなきゃそもそも本を書き続けることができない。小説家も漫画家も、抱えているジレンマは一緒なのだろう。

「やはり作家は自分の生活がかかっているから、『変わっていかないと』という意識が強いんだと思います。でも、出版社がこれまでやってきたビジネスモデルを急に変えることはなかなか難しい。けれど時代が移ろいで人の生活が変わっていくのだから、ビジネスの形もそれに合わせて変わっていかないといけないはずなんです」

 加藤さんはここで、音楽業界の話をしてくれた。CDが売れなくなって配信が当たり前になって~……という、よく聞く「時代は変わるね」話の、もっと前のことを。

「音楽=レコードだった世界に、CDというものが入ってきたとき、何が変わったかというと、曲の頭出しができるようになったんです」

 私の隣でワタナベ氏が「あ~確かに~!」と頷いたけれど、ここで困ったことに、平成生まれのゆとり世代、レコードに触ったことがない。

「……不勉強で申し訳ないんですけど、レコードって、頭出しできないんですか?」

「できるにはできるんですが、CDみたいにボタン一つで曲の頭に飛ぶことはできないんです。だから、CDの登場によって、音楽はサビから始まる曲が激増しました」

「頭出しでぽんぽん曲を変えられるから、曲の頭から聴く人の心をバッチリ掴まないといけなくなったってことですか?」

「そうじゃないと、すぐに違う曲に飛んでいってしまいますから。そして今、CDが廃れて音楽配信がメインになると、今度はCDはファングッズになってきています」

 確かに、どれだけ音楽をダウンロードして聴くようになっても、大好きなアーティストのCDは変わらず買っている。「曲は聴くけど、CDを買うまでではないかな」というアーティストは、圧倒的に増えた。

「メディアが変わればコンテンツも変わる。コンテンツが変われば、稼ぎ方だって変わるはずなんです。noteやcakesは、そのための場所として多くのクリエイターに使ってもらいたいと思っています」

 本というメディアを再定義したことで、コンテンツが変わる。コンテンツを使った稼ぎ方が変わる。平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』なんて、そのいいお手本なのかもしれない。

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