連載「母への詫び状」第二十二回〉

 当連載エッセイ、前回の『命を縮めてしまう?介護施設の負の現実』(※タイトルは初出時のもの)は、読者の方から多くのご批判をいただいた。

 

 不快な感情を与えてしまった人たち、とりわけ介護施設の現場で働く職員の方々にはお詫びの言葉を申し上げたい。扇情的なタイトルを含めて、軽率で、偏見を含んだ表現が多すぎた。申し訳ありませんでした。

 ぼく自身、父も母も介護施設にお世話になった人間なので、介護士の人たちには感謝の気持ちしか持っていないし、その人たちからお叱りを受けるような内容を書いてしまったことは猛省するしかない。

 一方、寄せられた感想を読むと、真意が伝わっていないと思う点も多かった。それについて、いくつか説明させていただきたい。

 まず前回、経験談を語ってもらったのは、ぼくではない第三者である。

 混乱を避けるために、ここでは「Aさん」とする。Aさんの語りは、連載の前々回『父には何もできなかった。だから母には全力で何かをしてあげたい』の回から始まっている。その最後のほうに「次回は介護施設についてお話しします」として、その続きが前回だった。

 Aさんは、結婚して子供を持つビジネスマン。親と離れて暮らし、認知症の父親は施設に預ける選択肢しかなかったと語る。その話は前々回に書いてある。

 一方、ぼくは繰り返し書いているように、独身の著述業。認知症の父を自宅で介護していた時期もある。

 まさか「父には何もできなかった」と悔いる家庭持ちのビジネスマンの語りを、ぼく自身の話として受け止められるとは、思いもしなかった。

 読者からの批判の中に「介護施設への個人的な恨みをぶつけるな」という類のものがあったが、これは否定しておきたい。

 それから、Aさんも決して介護施設への不平や不満は口にしていない。あらためて確認して欲しい。

 Aさんは、父親が問題を起こしたときも「お父さん、あんたが悪いんだ」「せっかく特養に入れてもらったのにバカなことをして、自業自得だよ」と、施設への批判めいた言葉は漏らさず、家族側の責任として受け止めていた。そのことはぼくも気をつけながら書いたつもりです。

 読者からの批判に「自分で預けておいて文句ばっかり言うな」という類のものがたくさんあったが、Aさんは介護施設や職員への文句など、一言も口にしていなかった。この点は名誉のためにもフォローしておきたい。Aさんは誰も責めていない。責めていたのは自分だけだ。

 それからAさんの父親が特養で暴力を振るい、病院の精神科へ入院をすすめられたという出来事についての意見も多かった。

「一回、手が当たったくらいで精神科に入院させるなんてありえない」
「きっと、それまでも暴力行為が何度かあったのではないか」

 これは読者の感想の一例だが、実はぼく自身もまったく同じ感想だった。

「いや、Aさん、振り払った手が一度当たったくらいで精神科に入院はないですよ。自分の父親が介護士に暴力を振るうなんて信じたくないだろうし、信じられないのかも知れないけど、そこはみんなそう思います。たまたま手が当たったんじゃなくて、何度か暴力まがいの問題があったと考えるのが自然ですよ」と、ぼくもそう思った。

 

 だからこそあえてAさんの言葉をそのまま書いた。認知症の現実を知らず、父親が暴力を振るうなんて信じたくない家族のズレのようなものが、象徴的に「たまたま手が当たっただけなのか…」という言葉に表れていると思ったからだ。

 結果的に、ぼくの説明不足だったのかも知れない。「この人、父親の実情を信じたくないんだろうなあ」と読者が思ってくれるだろうという前提で進めてしまい、それが伝わらずに「こんな施設、きわめてレアケースだ。作り話じゃないか」という疑念まで届いた。